クルクミンの医学研究最前線

クルクミンの医学研究最前線

医学分野での機能性研究を追う

自然界に存在するさまざまな生物がもつ機能性は、太古から経験的に用いられてきたが、まだまだ秘められているだろう未知の可能性を解明すべく、多くの研究がなされている。農学分野における機能性素材の研究は、まず素材探求から始まり、その機能性評価や、生合成経路の解明へと続く。機能性の評価は、いわゆる“エビデンス”をより確かなものにするために、分子レベルから細胞レベル、動物実験へと進む。生合成経路の解明は、その先の応用のカギを握っている。そこからは、いかに成分含量を高めるか、あるいは貯蔵や加工の過程でいかに成分を維持するかなど、実用化に向けた研究が進められる。

では、医学分野ではその研究はどのように展開されているのか。抗加齢医学会のランチョンセミナーでも取り上げられ、研究の進む素材の1つであるウコンの主要成分クルクミンを例に、その概要を追う。

マルチターゲット素材、クルクミン

医学分野における機能性素材の研究は、さまざまな疾患に対して、どの程度の効果があるのか、どのようなメカニズムで作用し、そしてどのように摂取すれば良いのか、といった臨床的な検証に特化しているのが特徴といえよう。

肝機能の改善としての効果が広く知られてきたクルクミンだが、最近の研究ではさまざまな効果をもつマルチターゲットな素材であることが明らかになってきた。特に研究が進む分野は、心不全、がん、運動による筋肉疲労、関節炎などの疾患領域だ。慢性炎症はNF-κBという転写因子が引き金となって起こることがわかっていたが、クルクミンには、NF-κBの活性化をブロックする働きをもつことが明らかになり、さまざまな疾患の進行を抑制することが報告され始めた。がん研究においては、前臨床試験では効果が明らかになり(1)、近年はヒトを対象とした臨床試験が増えている。国内における試験では、抗がん剤抵抗性となったがん患者に対してクルクミンを投与したところ、症状の改善が確認された(2)

また、皮膚に紫外線があたると、NF-κB が活性化されて炎症が起こり、皮膚の角化異常やメラノサイト増殖による色素沈着、コラーゲン分解などが生じることが知られているが、これらの現象についても、クルクミンが有効であるという報告がある。高吸収型クルクミンを投与したモルモットでは、色素の沈着が6~18%改善されたという。また、健康な女性を対象として高吸収クルクミンを摂取した場合、摂取前に比較して、肌の水分量が有意に上昇、顔の皮膚のシミ、シワ、などの画像診断でも改善効果がみられたという(3)

もう1つ、タンパク質P300の活性を低下させる機能にも注目が集まっている。心不全の原因として最も深刻であるのが、心臓の壁が厚くなる心肥大だ。高血圧などのストレスがかかると、心筋細胞が徐々に大きくなり、心臓の肥大を引き起こす。このとき、心筋細胞ではp300と呼ばれるタンパク質の活性を低下させることがわかった。クルクミン30 mgを1日2回摂取した場合、心不全の症状の1つである、「拡張不全」と呼ばれる症状が改善していたという。

 

医農連携、地域の豊富な生物資源にも期待

そのほか、動脈硬化、筋肉疲労への効果についても、すでに臨床試験が行われ、効果が明らかにされている。このように、効果が広く認知されているクルクミンをみても、ここ数年でそのエビデンスや用法の研究が急速に進んでいる。今後、農学に求められるのは、医療界と連携し、クルクミンのような確かなエビデンスをもつ素材とその可能性を明らかにしていくことではないだろうか。特に、コンパクトな機関内連携が可能であり、豊富な生物資源が眠るであろう地域研究機関においては、その発掘に期待していきたい。

 

<参考文献>

1)     Dhillon N., et al. (2008) Phase II trial of curcumin in patients with advanced pancreatic cancer. Clin Cancer Res 14; 4491-9

2)     Kanai M., et al: A phase I/II study of gemcitabine-based chemotherapy plus curcumin for patients with gemcitabine-resistant pancreatic cancer. Cancer Chemother Pharmacol 68; 157-64: 2011

3)     Shimatsu A., et. al. (2012) Clinical Application of “Curcumin”, a Multi-Functional Substance.  Anti-Aging Medicine 9 (2) : 75-83, 2012