若手研究者よ、自らを魅せよ 北村 亘

若手研究者よ、自らを魅せよ 北村 亘

北村 亘 さん

東京都市大学 環境学部環境創生学科 講師
2003年、国際基督教大学卒業。2011年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。一般財団法人電力中央研究所特別契約研究員を経て、2013年4月より現職。NPO法人リトルターン・プロジェクト理事長、鳥類研究の支援と還元を目的とした団体「Liferbird(ライファーバード)」代表も務める。

研究者であれば、自らが面白いと感じる研究を地道に進めるのは当たり前。しかし、大学のポストを獲得するのは難しい。この4月から東京都市大学・環境学部の講師になった北村亘さんは、自分をいかに「見せるか」を戦略的に実行し、キャリアを切り拓いている。自分を際立たせる抜群のプロデュース力は、「環境保全」という社会と接点を持った経験から得た、彼のもう1つの武器だ。

「正しい」だけでは伝わらない

学部時代、飼育メダカの産卵と水流の関係を研究していた北村さんは、「生き物がいる現場に出て、生物保全の実態を理解したい」と、大学院ではフィールド研究に軸足を移した。絶滅危惧種の鳥類コアジサシの研究を始めた北村さんは、研究の成果と現場の価値観の乖離を味わうことになる。地元の保護団体から研究への理解が得られず、調査地にたどり着くことすらできなかったのだ。「当時はこの論文の方法を試せば保全できるはずだと頭でっかちでした。そんなひとりよがりの説明では誰も耳を貸してくれませんでした」。研究は失敗に終わり、テーマを変えることになった。そこで、研究とは関係なくコアジサシの保全を目的としたNPO団体に参加することに決める。彼らと一緒に活動しながら、それに対する科学的知見を伝え続けた結果、皆が北村さんの意見を求めるようになった。「伝える先の立場に立って自分の考えを発信すること」を学んだ瞬間だった。

自らの商品価値を上げる

順調に研究を進め、博士号取得が目前に迫った北村さんは、「就職活動は自分という商品を相手に魅せるということ。自分のできることが何かをはっきりさせる必要がある」と考えた。アカデミックポストは狭き門だが、環境問題とともに重要性が高まってきた保全生物学という分野で、一般的に注目されやすい鳥類の研究をし、実際に現場で市民と活動していることは十分な強みになる。しかし、そんな自分の存在と人となりをどうやっ
て知ってもらえるだろうか。北村さんは自身のウェブサイトをつくり、一般向けの講演に積極的に出るようにした。サイトには、NPOでの経験、テレビや新聞などメディア掲載歴、そして数多くの一般向け講演歴など他の若手研究者にはない活動が並んだ。これらは論文・学会発表以外の自分のアピールポイントとなった。また、人に話すことや教えることのトレーニングを学生のうちに積んだ経験は、講師となって担当する大学での講義
にも役立っている。

誰も進出していない領域に一歩を踏み出す

「研究テーマで一番になることはもちろん必要。そこからいかにチャンスを広げられるかが実力だと思います」と言う北村さん。「鳥類の研究」を極めることはできるかもしれない。しかし、そのポストがすぐに空くとは限らない。ライバルもたくさんいるだろう。一方で「行動学と保全生物学」という切り口を併せもつ人は少ない。さらに、保全活動を続け、わかりやすく人に伝えられる、という強みを持つ人はもっと少ない。こうして、自分が関われる切り口を増やし、誰も進出していない領域を持つことがキャリアを積むためには重要と考えている。
北村さんが次に目指すのは10年かかる長期的スパンの研究だ。「若手のうちは長期的な研究はリスクが高くてやりづらい。だからこそ、他の人にはできない僕の特徴になっていく」と語る。学生のときは研究以外の活動に積極的に関わってきたことで叱責を受けたこともある。しかし他人と異なる活動の1つ1つが今の自身の研究者としての商品価値を高め、活躍の場を広げている。(文・武田 隆太)