【読物】企業の立場から 多様な視点で、がんを語ろう(vol.20)
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がんを学ぶ ひとりのがんに、みんなの力を/ファイザー
ファイザー株式会社 オンコロジー領域部 部長
廣橋 朋子 さん
最近電車で薬作りや病気についての情報発信に触れる機会が多くなりました。ファイザー株式会社もその一つ。薬づくりからがんに関わる企業として、これから始まるがん教育についてどのように考えているのでしょうか。
ーーがんは国民病とも呼ばれています。しかしそのことについて知る場はほとんどありません。その現状についてどのようにお考えですか?
今でこそがん担当ですが、入社した時は私もよく知っているわけではありませんでした。がんについて詳しく知ったのは、入社後身近な人が罹患したことがきっかけです。「研究者ですら自分で情報を調べてようやく正しいことがわかるのに、世の中の人にはだれが教えるんだろう?」と不安を感じたことを覚えています。だからこそがん教育が始まることについては賛成です。反面、正しい情報を伝える必要があると思います。
ーー普段がんと接していてどのような内容を伝えるのがいいと感じますか?
今、私も勉強中ですが、「精神腫瘍学」という日本ではまだよく浸透していない分野があります。この学問は、腫瘍学、免疫学、心理学、内分泌学、社会学、倫理学、哲学などの自然科学などを総動員し、病気の進行と患者さんやその家族の心の変化などを、科学的に探求します。例えば「乳がんを告知された場合の患者の反応」を、単なる身体状態や精神状態だけをみるのではなく、そこに隠れている心理的な問題や実存的問題、さらに社会・経済学的問題を包括的に評価することで、がんを取り巻く環境について調査しています。少しでもこうした知識があると、がんになった知り合いがいてイライラしているのをみても「がんで機嫌が悪いんだ」ではなく「もしかしたら●●のことで不安をもっているのかな」と考えられるようになると思います。精神論で伝えずに「科学的」に伝えることで、生徒のみなさんも受け止めやすくなるのではないでしょうか。
ーー製薬企業が教育で果たすべき役割はなんだと思いますか?
がんになったらほとんどの場合薬を使います。がんの薬に対して怖いという感情をもたれる患者さんが多い一方、新しい薬の候補が見つかるとすがる思いで「すぐにでも使いたい!」と言う方もいます。薬に対する過剰な不安や期待を改善するためには「薬がどのような段階を経て作られているか」を伝えるべきなのではと感じます。例えば、一つの薬を作るのに数万の候補物質があります。選ばれた候補物質は、必ず人を対象とした3段階の「治験」を行い、時間をかけ有効性(効果)と安全性を調べます。各施設での治験実施にあたっては、医師等だけでなく、健康科学者も加え、さまざまな観点から倫理的に問題がない状態で治験の計画を組み立てます。そういった流れを知るだけでも、薬についての誤解が少しは解けるのでは、と思います。基礎の研究から治験、開発後のフォローまで行う製薬企業だからこそ話せるのではないでしょうか。 患者さんやその家族、医師や医療スタッフ、製薬企業の研究者など、がんにはたくさんの人が関わり、異なる視点をもっています。教員の方もぜひ一人で伝えようとせずに、うまく外部の人間を使って、みんなでがんについて伝える場ができればと思います。