【読物】未来の教育 未来予想図2 教科書も検索も、もう物足りない! ~研究が育んだ目標達成力~(vol.20)
未来の教育 未来予想図2
教科書も検索も、もう物足りない!
~研究が育んだ目標達成力~
京都市立堀川高等学校 飯澤 功先生
「あそこのゼミの大学院生アシスタント、超電導しているらしいで」、「市中心部のヒートアイランドは、やっぱり人工排熱の影響が半分だったわ」。未来では、高校生が研究をして、研究者と交流するのが当たり前になるかもしれません。この未来をすでに実現しているのが、堀川高校です。1999年にある科目を設置してから3年で国公立合格者20倍、5年で京大合格者30名以上となり、「堀川の奇跡」と呼ばれています。2002年のSSH採択後、博士課程在籍の頃に招かれて以来、研究指導を担当する飯澤先生にその実際を伺いました。
目標の設定に1年を費やす
ある科目とは総合学習の時間を活用した「探究基礎」という課題研究型学習です。「大事なのは課題設定だけ」と、言い切る飯澤先生。堀川高校では、なんと課題設定に向けた準備に1年をかけます。1年前期には、研究の進め方や表現方法、論文作成の実習を行い、研究の世界観を認識させます。後期にはゼミに分かれて具体的な調査方法や、資料の見方を学びます。「研究テーマ選びは、”興味がある”でなく”好き”を重視します。似た言葉ですが、困難を乗り越えられるかどうかを左右しますから」。満を持して、研究計画書を作るのは春休み。「これでええな?絶対達成するで?」と難易度を調整しながら徹底的に確認します。「発表の時に準備不足だったら途中であっても指摘します。厳しいですが約束ですから」。叱られても生徒が納得し、目標を達成することが、成長に繋がると考えているからです。
他教科教員の協力、
教材としての研究者
授業をするのは理科教員だけではありません。1年前期の授業では、国語、英語、数学、情報の先生らが担当して、探究や表現の仕方を指導します。最終的に科学研究をする生徒であっても、理科以外の探究を知ることで、逆に視野が広がるといいます。
また、授業には10名ほどの近隣の大学院生をアシスタントとして招き、研究の指導や相談に応じてもらいます。なんと、SSHの予算の約半分は、大学院生の人件費に充てているのです。「設備にはお金をかけません。限られた条件で研究するのは大学や企業の研究者も同じですから」。探究の教材として、高価な機器より生身の研究者を選んだのです。
研究論文と体験記で評価する
研究の成果は、論文だけではありません。探究力の向上を見るために「体験記」を書かせています。1年半の探究活動を振り返り、自分が変化した瞬間や、身につけた能力を言語化することで、自分の成長に納得し、他人に説明できるようにすることが狙いです。「本人だけでなく、指導する教員や、同じように研究に挑戦する後輩にも非常に役立ちます」。進路実績が高く評価される堀川高校ですが、多くの時間を探究に費やすため、2年時の成績が高くない生徒もいるといいます。「この大学で学びたい」という気持ちを目標に変えて、達成する力が受験の壁を次々と突破しているのです。「環境や人的要因を言い訳にせず、とにかく”やる”ことを心がけています」と生徒の次の育成プランを楽しそうに語る飯澤先生は、環境は変われどいまなお”研究者”なのでしょう。