多様な知識が同居する“ 適塾” 的空間から、 最難関の「脳」に挑む

多様な知識が同居する“ 適塾” 的空間から、 最難関の「脳」に挑む

いま世界中が注目している「がん」「ゲノム」そして「脳」の3領域。多額の研究費が投じられ、多くの研究者がその解明に挑み続けている。基盤が整い、様々なアプローチ方法で、ある程度の進展が期待できる他2つの領域とは異なり、「脳」の分野だけは依然明確な突破口は確立されていない。「多様な経験と思考が交わるとき、ぱっと突破口が拓くかもしれない」と、神経形態学と電気生理学という異なる専門分野をもつ2人は語る。

臨床医師から基礎研究者への転身

医師として患者に関わっていた藤山さんは、5年目の頃に、思い通りに体が動かないパーキンソン病の患者を担当した。薬も治療法もなく、患者を前に「何もできないもどかしさ」に襲われたという。「自分が基礎研究に携わることで、病気の治療法を確立できるはずだ」という想いから、大学の研究者への道を歩み始めた。すでに研究を始めて20年。国内外の大学で脳部位の役割を明らかにする神経形態学を学んできたが、脳科学の分野は奥が深く、未だ病気解明の糸口はつかめていないという。

緻密な因果を地道に解き明かす

現在は、2012年に新設された同志社大学脳科学研究科へと活動の場を移し、かつて電気生理学を学ぶ場で交流のあった苅部さんら異なる経験と視点を持つ複数のメンバーとチームを組み、全ての研究のベースとなる「脳の路線図」の解明に挑んでいる。「脳の神経ネットワークは実に緻密で複雑です。地道な作業の連続ですが、この路線図が明らかになれば、病気だけでなく、あらゆる脳研究の発展に貢献できると思います」。臨床医師からの転身が正しかったのか、今でも自問自答するという藤山さん。自分の手で、脳の神経回路網解明の目星をつけることが研究上の最終的なテーマであると語る。

8人の部門長から技と心を学ぶ

研究科は8つの部門に分かれて運営されている。部門代表者は、みな海外経験も豊富で、著名な雑誌に掲載される実績を持ち、3名は医師の経験をもつ。多様なキャリア、専門性をもつスタッフが「脳の理解」という壮大な目標に向かって研究を展開しているのだ。学生指導を担当する苅部さんは、「所属ラボに関係なくみんなで親身になって学生を育てる、驚くほどアットホームな環境」と語る。
ますます加速する脳研究において、斬新な発想と実力を備えた研究者として活躍したいなら、脳研究における「適塾」ともいえる、多数の師に師事する学び合い空間こそが、新たな活路を見出す可能性を秘めているかもしれない。