Tech Plan グランプリ インターネットが「すべてをつなぐ」世界を目指して

Tech Plan グランプリ インターネットが「すべてをつなぐ」世界を目指して

株式会社ABBALab 代表取締役/株式会社nomad 代表取締役 小笠原治さん

今から約15年前、データセンターやホスティングサーバー事業を行うさくらインターネットを田中社長らと共同創業し、国内のインターネット産業が育つインフラ整備を進めた小笠原治さん。その後、個人投資家として様々な起業家をサポートしつつ、今自らの夢の実現に向けて始めているのが、新しいものづくり産業のインフラ整備だ。

やりたいのに、やれない・作らないをなくす

「今から20年前、僕がはじめてインターネットに出会ったときに感じた魅力は、相互にネットワークがつながり合うことで、今までつながる可能性のなかったモノやモノゴトがつながり、できることの範囲が比較にならないくらい広がるということ。でも僕が当時想像していた未来と現在の世界はちょっと違う。インターネットが、広告を売ることが目的のメディアの亜流やおせっかいなソーシャルやゲームなどを中心としたスマホのインフラに留まってしまっている。そうではなくて、もっと広い意味でつなぐためのインターネットにしたい。そのためには、これからうまれてくるモノがインターネットにつながることを前提にする必要がある。そしてやりたい人は誰でもインターネットを介してものづくりができるようにしたいんです」。京都訛りの穏やかな口調で小笠原さんは語る。

インフラ整備が産業を育てる

▲ 西麻布のオフィスにある最新の3Dプリンタ

▲ 西麻布のオフィスにある最新の3Dプリンタ

 そんな思いを抱き始めた2年前、鉄の使える3Dプリンタがあるという話を聞いた。金属すらデータでやりとりして好きな場所で出力できるという、インターネットとものづくりをつなげるツールとしての可能性を感じた小笠原さんは、日本中の商社を回る。その結果、海外には3Dプリンタを製造する企業も、3Dプリンタを使って製造の外注を受けるサービスもたくさん存在しているのに、日本にはほぼないことを知る。そこで、2013年9月にシェアオフィス「NEWSBASE」や投資家・起業家が集まる「awabar」の運営などを行う株式会社nomadに、最新の業務用3Dプリンタやレーザーカッター、UVプリンタなどをそろえて、ものづくりのデータセンター事業「Isaac Studio」 をスタートした。CMでもおなじみのDMM 3Dプリントをはじめ、同社の3Dプリンタを使って3Dプリンティングサービスを行う企業も多い。

「これからPCB基板の製造装置なども置く予定です。とにかく、世界で1番安くサービスを提供できる環境を作りたかったんです」。インターネット業界も、最初にさくらインターネットがとにかく安くレンタルサーバーを提供したことで使う人が増えて、多くの新しいサービスがうまれてきた。ものづくりの世界でも、使う人が増えれば、産業の成長を加速できる。それが小笠原さんの夢の実現につながる。

作り手の成長も促す

小笠原さんは株式会社nomadのほかにも、株式会社ABBALabの代表取締役も務める。nomadが広い意味でインフラ事業を行っているのに対し、ABBALabではプロトタイプを作る人たちへの投資プログラムを提供している。株式取得だけでなく対象者と話し合いながら試作品開発に必要な資金を提供しつつ、クラウドファンディングを活用してとにかくユーザーに製品をさらし、早目のフィードバックを受けることを勧めている。そこで高い評価を集めたものは、次の適量生産に必要な資金を支援する。「量産でもなく、試作でもない。クラウドファンディングで得た支援数の10倍〜20倍を目安に採算が取れるラインを適量生産と呼んでいるんです。でも、この適量生産をできるかどうかが、スタートアップが成長を続けるためにはとても大事だと思います」。

僕らも15年前怖かった

▲ 鉄を使って3Dプリンターで作った製品

▲ 鉄を使って3Dプリンターで作った製品

まだまだベンチャーの数自体が少ないものづくりの世界では、投資に対して臆病・否定的な人も多い。しかしながら、今でこそ多くのベンチャーが生まれ、上場や企業買収が行われるインターネット業界も、15年前は同じ状況だったと小笠原さんは語る。「怖いのは当たり前ですよ。僕も過去15年間でジャフコをはじめVC各社からトータル十数億円の投資を受けてきて、当時めっちゃ怖かったですし、今でも人のお金を預かるのは怖いです。お金に換算することで自分のやりたいことの価値を低く見られたと感じることもある。でも僕らはそれでもやりたかったから投資を受け入れました。「怖い」より「やりたい」が勝つなら、投資を受ければいいと思います」。

「熱量」がすべてを決める

そんな小笠原さんは、投資以外の形での支援にも取り組んでいる。試作品ができた際に、業務委託の形にしてABBALabが開発元としてクラウドファンディングに出し、そこで生まれた利益をもとに分社化したり、できた製品をすべてABBALabで買い取るという契約も進めている。「勘違いしないでほしいのは、投資家=エンジェルであっても何のメリットもないのにお金を出すことはないということです。自分が面白いと思えるものと出会った時に、出資というリスクをとりながら、そこから生まれる価値やメリットを考えているだけなんです。だから僕らにとって怖いのは、作り手の「やりたい」という気持ちが消えること。作りたいや使って欲しいという熱量さえあれば、なんとかなることも多い。投資を受ける際に感じる不安を解消する特効薬はないですけど、不安であることは教えてほしい。そうしたら、一緒にいい方法を考えることができます」。

インターネットがすべてをつなぐ世界をつくる。そんな小笠原さんのやりたいことにつながるアイデアを持っている人は小笠原さんがオーナーを務める六本木の「awabar」に通いつめるといいだろう。

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