日本の養殖技術でタイに次世代養殖システムを構築する
世界的な人口増加に伴い、水産養殖は動物性タンパク質の供給源として役割が拡大している。事実、2011年は世界の漁業・養殖の生産量のうち47%を水産養殖が占めている。食料安全保障の観点からもさらなる増産が求められているが、養殖現場では感染症の多発などの問題に直面している。また、生産者からは所得向上につながる価値が高い魚介類の養殖技術が求められている。東京海洋大学岡本信明学長と廣野育生教授は、タイへの技術協力を通じて増産に資する新たな養殖システムの開発に挑戦している。
養殖現場を取り巻く現状
水産養殖増産への障壁の1つが魚病の蔓延だ。エビ養殖では、稚エビに感染すると致死率がほぼ100%というEarlyMortalitySyndrome(EMS)と呼ばれる疾病が2009年から流行しており、タイでも減産の要因となっている。また増産実現のためには生産者の意欲をどう掻き立てるかも重要だ。現在、東南アジアの養殖ではティラピア、コイなどの安価な魚が中心であるが、ハタやスズキなどの市場性が高い魚種の養殖技術の確立がその打ち手となる。しかし、これらの魚介類を対象とした飼料開発、種苗生産への民間企業の投資は負担が大きく進んでいない。
高品質な魚介類生産に必要な新しい養殖技術の開発
そこで本プロジェクトでは、バイオテクノロジーの技術を取り入れた新たな養殖システムの開発を目指している。具体的には、感染症予防技術の開発や、分子遺伝学的情報を活用して成長が早く病気やストレスに強い魚類の育種を試みること、親魚から異種の魚の卵や精子を作らせる借り腹技術を用いて養殖が難しく付加価値の高い魚種を育成することなど多岐にわたる。研究は2011年にスタートしたが、すでに廣野教授の研究グループがEMSを引き起こす病原性の腸炎ビブリオのゲノム解読に成功しており、防除法や早期発見手法の開発に期待が高まっている。
長年の人材育成が研究の原動力
プロジェクト開始から短期間で成果が出ているのには理由がある。東京海洋大学では、1995年から東南アジアでの交流をスタートさせており、タイからも多くの留学生を受け入れてきた。彼らは今、農務省水産部や、カセサート大学水産学部など様々なポジションを得て活躍している。多岐にわたる共同研究が実現しているのは、20年間の交流で多様かつ重層的な現地との連携ネットワークが構築されているからだと岡本学長は語る。日本とタイの二人三脚で次世代の養殖システムを開発することで、世界の水産養殖に多大な貢献ができるであろう。
SATREPS課題名
「次世代の食糧安全保障のための養殖技術研究開発」