エネルギーの地産地消によりベトナムの農家の生活向上を実現する 迫田 章義

エネルギーの地産地消によりベトナムの農家の生活向上を実現する 迫田 章義

Vietnam日本では2002年の「バイオマス・ニッポン総合戦略」を受けてさまざまな事業が実施されてきたが、普及への道のりはまだ遠い。ネックとなっているのは技術よりもバイオマスの運搬費などの経済性の面だ。そのような中で、東京大学生産技術研究所の迫田章義教授はベトナムを研究のフィールドに選び、バイオマスタウンの社会実装ためのモデル構築を行い、技術協力と現地との共同研究開発を進めている。

ベトナムでバイオマスタウン構想に取り組む意義

迫田教授がめざすのはバイオマスタウン、すなわち、地産地消型のエネルギー循環システムをつくることであり、巨大なバイオ燃料プラントを建設することではない。経済成長が著しいベトナムでは、電力需要の増加に伴い、電力と一次エネルギーの安定供給が課題となっている。そうした中で、人口の約7割を占める農村部では都市部との経済格差が生まれており、エネルギーの確保が地域住民の生活向上につながる。そのため、農村部でバイオマスタウンを構築する意義は大きい。日本で培ったバイオ燃料に関する研究成果を活かす場があるのだ。

現地との連携で社会実装を目指す

とはいえ、日本の先端技術をそのまま現地にあてはめようとしても、費用の面で逆に実用化を妨げる要因となりうる。プロジェクト開始にあたり、日本国内で連携のあった農学・バイオ・工学三者の専門家と、現地の研究機関や行政がタッグを組んだ強固な体制を築き上げた。この研究チームでは、バイオエタノールの分離精製に用いる吸着剤に、現地で入手が容易で安価な竹炭を使用するなど、あくまで現地に最適化された技術開発を心がけてきた。また、当然のことながら社会実装には住民の理解と協力が欠かせない。事業のメリットとして「CO2排出量削減」などの社会貢献的な点をあげても現地住民には響かない。「出稼ぎが不要になる」など、生活がどう向上するのかを具体的に話すことが大切なのだ。

見えてきたバイオマスタウン実現のかたち

現実的なバイオマスタウンのあり方について、迫田教授は次のように語ってくれた。「もともと伝統農業は持続可能なものです。その健全な物質循環を維持しつつ、増加するエネルギー需要を補うものとしてバイオマスエネルギーを活用することが大切です」。農業のかたちを変えるのではなく、既存の仕組みのなかにバイオマスエネルギーの居場所をつくるのだ。こうした知見が、ベトナムはもちろん、他の東南アジア諸国でも活かされていくに違いない。

SATREPS 課題名 「持続可能な地域農業・バイオマス産業の融合」
http://www.jst.go.jp/global/kadai/h2106_vietnam.html