【特集】研究成果の還元で加速する、日本の切り札 「スマート農業」(前半)
取材協力 農林水産省生産局農産部 技術普及課生産資材対策室 課長補佐 齊賀大昌氏
1 次産業再生の切り札の1つとされているスマート農業。現在、どこまで実証・研究が進み、何が課題となっているのか。「スマート農業の実現に向けた研究会」の立ち上げや将来像の明確化、ロードマップ策定の段階に関わった、農林水産省生産局農産部技術普及課生産資材対策室の齊賀大昌氏にお話を伺った。
1 次産業再生の切り札
2013 年6 月、国家の成長戦略の一環として、「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」が閣議決定された。ここでは、主要施策の1つとして、農林水産業を成長産業とすることが掲げられている。コメの生産コストを10 年間で4 割低減、2020 年までに農林水産物・食品の輸出額を現状4,500 億円から1 兆円に、また6 次産業化の推進により市場規模を1 兆円から10 兆円と拡大し、農業・農林全体の所得を10 年で倍増する戦略を策定する(※ 1)、という意欲的な内容で、その実現性が賛否をよんだことから記憶に新しい読者も多いことだろう。この中で、輸出拡大、増産に向けて、「新たな育種技術や高機能・高付加価値農林水産物の開発、IT・ロボット技術等の科学技術イノベーションを活用した生産・流通システムの高度化等を通じ、こうした市場・産業の拡大・発展を図る」と記載されている。この流れの一環として、農林水産省は同年11 月に学識者や総務省・経済産業省・厚生労働省などの関係省庁、ロボット分野・IT 分野のトップ企業、農業者ら24 名を委員として「スマート農業の実現に向けた研究会」を発足した。 「スマート農業の実現に向けた研究会」の事務局である農林水産省生産局農産部技術普及課生産資材対策室の齊賀大昌氏は、次のように話す。「背景は研究会の検討結果の中間とりまとめ資料に集約されているとおり、農業人口の減少と高齢化、新規就農者の不足です。労働力が不足したからといって、食料供給を不安定にするわけにはいきません。もう1つは、優れた技術をもつ、いわゆる篤農家がもっているノウハウの伝承です。そのノウハウを新規就農者に引き継ぐことで、新規就農のハードルが大きく下がります。生産者のモチベーションも、将来のプランニングという意味でも、スタートラインがまったく違ってきます」。
広がりはじめた農業ICT と技術開発
スマート農業のコンセプトは、「先端技術を活用したイノベーションにより『超省力』『快適作業』『精密・高品質』を実現する」ということである(※ 2)。このコンセプトは、実は立ち上がって間もない。「現在、それぞれロボットや機械の研究、IT の導入などは進められていますが、スマート農業として1つのコンセプトにまとめたのは、今回が初めてではないでしょうか」。齊賀氏はそう語る。その後6 月の「日本再興戦略」などを通して、方向性が定められてきた。 現在想定されている技術は、GPS 自動走行システムによる自立走行トラクターや自動収穫ロボット、作業を軽労化できるアシストスーツや除草ロボット、熟練農業者や篤農家の技術のデータ化、センシング技術や過去データの分析による精密農業の実現やリアルタイム対処などで、今後の発展が期待されているところだ。(後半に続く)
参考ページ
※ 1 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_jpn.pdf
※ 2 http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_smart_nougyo/pdf/02_jitugen.pdf