味を、測る、創る、見せる技術 味覚センサで味の見える化

味を、測る、創る、見せる技術 味覚センサで味の見える化

「蓼食う虫も好き好き」。美味しさの定義は、まさに人それぞれであるが、その味を構成する要素を数値化する技術が普及してきている。味覚、嗅覚、テクスチャの数値化は、商品開発やマーケティング戦略、製造コストの削減などに幅広く活用され始めた。味覚センサの生みの親、2013 年に紫綬褒章を受章した九州大学大学院都甲潔主幹教授が開発した「味の見える化」技術が開く新しい食品産業の現場を紹介する。

 

数値化される味

都甲教授が開発した技術をもとに味覚センサを実用化した九州大学発ベンチャー、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジーは、味認識装置をすでに国内外の食品メーカー、医薬品メーカーに展開している。主な用途は、新しい食品の開発や品質管理、飲みやすい医薬品の開発、目的とする味を実現する簡易迅速なレシピ開発などである。その他に、食品の味を目に見える形で示すマーケティングやそれらにもとづくコンサルティングなどにも用いられている。数値化できる項目は、苦味、渋味、旨味、甘味、酸味、塩味の他、後味としての苦味、渋味や旨味などで、人の 10 倍以上の感度で、それぞれの味センサで測定することができる。これら人の舌を模倣した味センサにより味の強弱、バランスなど総合的に評価する。以下に活用事例を紹介する。

 

マーケティングに絶大な威力

美味しいと感じる味は、地域や年齢、性別によって異なる。うどんやそばの「だし汁」が関東と関西で異なることはよく話題になる地域差の代表例だ。年齢による嗜好性が認められたコーヒーの味における事例を図 1 に示す。40 歳以上では、酸味を好む傾向が顕著であり、40 歳以下では、酸味だけでなく、苦味のあるコーヒーを好む傾向が強いことがわかる。こだわりの味があるとするなら、どういった客層をターゲットにすると良いのか、ターゲットとする客層がすでにあるなら、どのような味のコーヒーが好まれるのか、このようなデータは戦略を立てるうえで非常に強力なツールとなる。また、メンチカツの価格に対して旨味コク(旨味の後味)の相関をプロットしたのが図 2 だ。価格と味に相関がみられ、これを活用することで、「この値段でこの味」と感じるような、良い意味でイメージを裏切り、消費者を得した気分にすることもできるはずだ。

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味を創造できる強み

味の数値化は、商品開発でも威力を発揮する。例えば、有名ラーメン店の味をカップ麺で販売する場合の商品開発はイメージしやすいだろう。有名店の味をベンチマークにして試作を重ねるときに、それぞれの味を数値化することで、目標を明確化することができ、結果、開発コストの削減につながる。目標とする味のコーヒーを、すでにあるいくつかのコーヒーを原料にブレンドしてつくる事例を図 3 に示す。複数のコーヒー原料の味を数値化し、それぞれのコストと合わせて解析することで、最適な原料比率とコストの最小化を実現することが可能である。このような技術は、複数の味の異なる原料を組み合わせて商品をつくっている場合に特に有効である。原料は常に同じ値段で仕入れられるとは限らない。さらに災害などがあった場合には供給が止まることも想定される。原料コストを最小にしつつ、目的の味を実現する配合を計算によって導ける強みは計り知れない。味の数値化技術が食品産業の現場に急速に浸透している理由がおわかりいただけたと思うが、活用場面は食品開発製造の現場だけにとどまらない。商品特徴をバイヤーに説明するツールとして、消費者に商品の魅力をわかりやすく伝えるプロモーションツールとして、カタログやポスター、POP にも、その活用の範囲は拡大している。今後、さらに強力なツールとして認知されていくに違いない。

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