日本を新ものづくり立国にする〜【特集】3Dプリンタは産業界・研究界に革命を興すのか?『EngGARAGE*04』

日本を新ものづくり立国にする〜【特集】3Dプリンタは産業界・研究界に革命を興すのか?『EngGARAGE*04』

経済産業省製造産業局参事官室総括係長 高木聡さん

 2014 年2 月に経済産業省から3D プリンタから生まれる今後のものづくりのあり方を考察した「新ものづくり研究会」の報告書が発表された。個人向け3D プリンタの低価格化や『Makers』ブームが後押しし、急速に市場が拡大している中、日本はどのような戦略で進めていこうと考えているのか。研究会を担当した経済産業省製造産業局の高木さんに聞いた。

3D プリンタが持つ2 つの方向性

 「3D プリンタ全体の発展可能性は非常に高く、経済波及効果も装置・材料に加えて、関連市場の創出や生産性の向上等の効果を合わせて世界で2020 年までに22 兆円と予想しています。そこで、国としてもこの技術の可能性を理解し、競争力を高めるためにできることをスタートさせてきました」。昨年10 月から立ち上がった「新ものづくり研究会」で、まず行ったのは3D プリンタを2 つの方向性に整理したことだ。
1 つは、より精密な工作機械である『付加製造装置(AM : Additive Manufacturing)』としての可能性だ。従来の切削や塑性加工のようなものづくりではなく、材料を付加して製造する方法として、海外ではAMと呼ばれている。以前は試作品を作る程度だったが、精度の向上によって、本格的な最終製品も作られるようになっている。

 もう1つの方向性が、ブームの火付け役となったいわゆる『個人向け3D プリンタ』である。安価なプリンタが出ただけでなく、専門的な3D CAD よりも簡単で、感覚的に3D モデリングできるソフトの出現や、3D データを共有するウェブサイトを通じて世界中の作品が共有されはじめてきたことで、誰でもアイデアを形にできるようになってきた国としてもこの2つの方向性を支援するという。

Eng4_3

Made in Japan の3D プリンタを開発せよ

 「付加製造装置の生産はアメリカが70%をしめ、日本の生産シェアは3% と大きく立ち遅れています。そこで、日本製の付加製造装置を日本のものづくり力で開発する必要があると考えました」。経済産業省は今年「三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム」を公募し、近畿大学工学部の京極秀樹教授を中心とする共同チームが採択された。2020 年までに海外の従来型と比較して速度が10 倍、精度も5 倍の金属用のAM の開発を目指す。材料工学、機械工学、情報工学等、様々な分野の研究成果が活かせるチャンスである。海外製が台頭している中、日本がPrinterMaker となり日本のものづくりのノウハウを活用した装置を開発し、世界に勝負に出る。

 応用面で先行する例として、日本のファソテック社の「生体質感造形」技術が挙げられる。これは、患者個人のCT スキャンやMRI の画像から、臓器の疾患状況を可視化し、触れるようにするソリューションだ。医師によるインフォームド・コンセントとして利用されたり、手術前シミュレーション、研修医の教育等に幅広く利用されている。このような用途を見据えてユニークなプリンタを開発し、AM を活用できる研究開発分野を発掘していくことが重要であろう。

拠点づくりを活かすための人材育成を

 先端の研究開発の支援とともに欠かせないのが、人材育成だ。デジタルデータさえあれば思い通りのものづくりができるわけではなく、材料特性や金属加工に対する基礎知識に習熟した人が必要である。しかし、金属系学科や機械系学科の人気低下もあり、テコ入れが必要だという。

 すでに、アメリカやドイツ、シンガポールなど各国とも拠点整備や人材育成に積極的取り組みを初めている中で日本での拠点づくりも2014 年度に始まった。大学や高等専門学校を対象に3Dプリンタの拠点整備が始まった。今後拠点を広げていくと、重要になるのがそこで行う教育カリキュラムだ。ものが集まるだけでなく、そこで学び、そこから新しいアイデア・技術が生まれるサイクルを作る必要がある。「マサチューセッツ工科大学のメディア・ラボのように情報が集まり新しいものを生み出させる場が日本にはもっと必要だと思っています。大学内だけでなく、地方の中小企業とも連携し、新しいものづくりの流れが生まれることを期待しています」。国の後押しを活かして、いかに新しいものづくり人材を育成していくか、拠点となった大学・高専の手腕にかかっているだろう。

Eng4_2