ムスリムから見た、日本におけるハラール商品市場の可能性

ムスリムから見た、日本におけるハラール商品市場の可能性

2014 年末までに世界のムスリム(イスラーム教徒)人口は、19億人に到達すると推定され、世界人口のうち、じつに5 人に1 人がムスリムとなる。ハラール市場への参入が多くの企業にとってビジネスチャンスであることは間違いない。しかし日本在住のムスリムの1人として、日本の取り組みは遅れをとっていると感じている。そこで、ハラール市場の現状についてふれながら、参入のメリットについても紹介していきたい。

最もムスリムが多い地域は東南アジア

 イスラーム教というと真っ先に中東を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、ムスリムの国別人口をみてみると、1 位インドネシア、2 位パキスタン、3 位インド、4 位バングラデシュと、じつは上位をアジアが占めている。いうまでもなく、日本にとって東南アジアはこれからの成長に欠かせないパートナーであり、ムスリムの存在についても同様のことがいえる。実際に、日本各地でムスリムの観光客誘致の動きが活発になっており、成田空港、関西空港等で礼拝場が設置されたのも、こうした動きの一環である。しかし、ハラール食への対応はまだまだ遅れているといわざるを得ない。

ムスリム人口推移

ハラールとは? ハラール認証とは?

 イスラーム法において、合法であり、健康・清潔・安全などを意味する言葉が「ハラール」である。日本でもイスラーム法の下で豚やアルコールの摂食が禁止されていることは知られているが、その他にも、犬など獲物を捕らえるための牙や爪をもつ動物も食べることが許されない。また、鳥や牛、羊などの動物であっても、口にするためにはイスラーム法に基づいた処理が必要だ。それは、加工食品や食品添加物、化粧品の原料としての利用であっても同様であるため、商品に記載してある原材料表示をみても判断することが難しい。そのためムスリムの食の選択は、屠畜から加工まで厳格な審査手続きを行うハラール認証が頼りとなるのだ。

国内市場へのハラール商品開発のメリット

 世界全体のハラール商品市場は約300 兆円といわれている。日本企業もハラール対応のマヨネーズやスキンケア商品をマレーシアやEU 諸国で販売するなど、動きを活発化させている。一方で日本国内に目を向けると、すでに約20 万人のムスリムが住んでおり、年間100 万人ものムスリム観光客が来日している。アジア圏の人口増加・経済成長による訪日ムスリムの増加、そして東京五輪に向けて進められている「観光立国」への取り組みを考えると、国内向けのハラール商品の開発や地域特産品のハラール対応商品の開発にはビジネスチャンスがあるといえる。また、そうした取り組みを行うことで、海外進出へ向けて認証のノウハウが得られることや、さらには、認証食品の安全性をアピールできるというメリットもある。現に筆者が住む中国では、添加物レベルの原材料から生産・加工・流通までのトレーサビリティが担保されているハラール商品はムスリムではない消費者からも注目を集めている。

在日ムスリムと訪日観光客が、世界展開のカギとなる

 日本のハラール市場について留学生として感じたことも多い。来日当初はハラール食に関する情報があまりにも少なく、ムスリムの知り合いができるまでは、食に非常に苦労した。周囲のムスリムのなかには、そうした生活面での不便さから日本を離れた人もいる。世界遺産にも指定されるなど、日本の食は注目を集めているが、それらを世界の5 分の1 を占めるムスリムの人々が体験できないことは非常に残念だ。国内でハラル認証に対応した商品が広がれば、日本人の優しさや安全な社会の話と同様に、私たち留学生や観光客から世界中のムスリムへと日本食の良さが伝えられるはずだ。

ビジネス展開への私見

 最後に、ハラール商品のビジネス展開について私見を述べておきたい。まずは、ゼラチンやポークエキスのような非ハラール由来の原料・添加材を、非動物由来成分やハラール対応処理済の動物由来に変えることでクリアできることもある。視点を変えると植物由来の原料・添加物をすでに開発しているのであれば、ハラール商品への展開がしやすいということになる。また、和牛やラーメンなど、国外でも知名度が高い食材や食品のハラール対応を行うこともビジネス面でのチャンスがあるといえる。こうしたハラール認証の手続きの詳細については日本ムスリム協会や日本ハラール協会などから情報を得ることができる。この記事が読者の皆様のこれからの研究開発やビジネスの参考になれば幸いである。

ハラール添加物

著者:アフマド ニヤズ氏

新疆ウイグル自治区カシュガル出身、2005年新疆医科大学臨床医学部卒業後、2009年より東京医科大学大学院医学研究科に在籍し、2013年医学博士号取得(形成外科を専攻、瘢痕形成に関する基礎研究)。現在、福井大学インターンシップ研究員。
医師の道を続けながら、家族経営のウイグル風飲食店を中国全国に広げたい。夢の実現の一歩として、日本でのハラール対応飲食チェーンの誕生に自分なりに貢献したいと考えている。

 

出展:『AgriGARAGE』07号、22~23ページ

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