ようやく整備が始まった日本におけるハラール対応
今号の特別寄稿「ムスリムから見た日本におけるハラール商品市場の可能性」にあるように、訪日ムスリムが今後も増え続けると期待されるなか、国だけでなく、多くの企業や自治体も、新たなビジネスチャンスや地方活性化につなげるため、日本国内でのハラール食対応の動きを活発化させつつある。しかし、実際にハラール食品とはどのようなもので、現状の認証制度がどのようになっているのかは、広く知られているとは言い難い。そこで、日本最初のムスリム団体として知られ、また、国内で唯一、マレーシア・インドネシア両国からハラール認証機関として指定を受けている日本ムスリム協会への取材を行った。
ハラール認証とは食品規格を示すものではない
単に非ハラール成分を含まないだけではハラールな食品とはいえない。ハラールである食品のみを摂取することは信仰上の行為であり、食料生産、加工、流通、販売方法、さらに調理にいたるまで、すべてを神の教えに沿って実践することが重要なのだ。なお、神の教えの実践をするにあたって指導的な役割を果たすのがイスラーム法学者であり、国家における法と同様に、その地域が置かれている状況によってどのように教えを守るべきか、その運用が違ってくる。そのため、ハラール認証に求められる条件も国によって異なっている。
厳格なマレーシア・インドネシアのハラール認証
イスラーム国家として長い歴史をもつアラブ諸国よりも、マレーシアやインドネシアのハラール認証の方が厳格な理由もそこにある。両国とも多民族国家であり、多様な文化、宗教が認められている。イスラーム法で禁止されている酒や、マレーシアでは豚料理を出すレストランも少なくない。そのようななかで自らの信仰を守るために、厳格なハラル認証制度が必要なのだ。そして、厳格なマレーシアのハラール認証制度が他国に波及する可能性もある。現在、イスラーム国家のなかで、認証基準を統一化しようという流れがあり、マレーシアはそこでリーダーシップをとっているためだ。
日本国内でのハラール認証は一筋縄ではいかない
今回取材に協力していただいた日本ムスリム協会は、食品を輸出する場合のハラール認証機関としてマレーシアとインドネシアの両国から認められている唯一の機関である。国内のハラール認証制度について聞いたところ、日本でマレーシアと同等のハラール認証基準をクリアするのは非常に困難なことだという回答が返ってきた。ハラールである原材料や添加物のみで食品を製造することももちろん難しいが、それ以上に、イスラームの文化がまったく根付いていないといえる日本で、生産から流通、販売・調理まで、すべての過程でハラール対応を満たすことは現実的ではないのだ。仮に不十分な日本のローカルルールでハラール認証を出してしまった場合、訪日観光客等により日本のハラール認証基準が十分なものではないという認識が広がる。そうすると、国内の認証だけでなく、現在認められている海外向けのハラール認証にも不信が広がり、日本食普及のみならず、日本に対してのイメージダウンにもつながると同協会では警鐘を鳴らす。
国内でのハラール対応に向けた動向
しかし、同協会ではそれをただ見ているだけではない。在日・訪日ムスリムのために、日本国内でできる現実的な範囲でのハラール対応を吟味し、それを行っている証として推薦状の発行を始めている。また、国レベルでも、同協会がアドバイザーの1 団体となり、豚肉やアルコール等の非ハラール成分が入っていないことを示す食品規格制度を進めている。スーパー等に陳列されている商品のハラール対応がスマートフォンでわかるシステム開発も検討されているという。国内でムスリムの方に向けた商品開発を行う場合は、国内の制度が未整備な状態であることと、ハラール認証が信仰に基づくものであるという認識のもと、国外の認証制度についても熟知し信頼できる団体への相談を行うことが最低限必要なことではないかと感じた。
取材協力:宗教法人日本ムスリム協会
日本における最初のムスリム(イスラーム教徒)の団体として、1952 年に設立された。少数派のムスリムが日本社会と協調しながら、イスラームの教義を実践していく道筋をつくることを目的としており、宗教活動としての宣教・広報出版・信者の育成教育・宗教行事や儀式の開催・海外イスラーム諸国との親善協力および国内の宗教団体との対話など幅広い活動を行っている。
公式WEBページ http://jmaweb.net/