描いて貼って電子回路を作ってしまう時代に AgIC株式会社
AgIC株式会社 清水信哉さん 代表取締役インタビュー
難しそうで、マニアな男の子だけがやるもの…そんな印象がある電子工作のハードルを下げたい。そんな思いで、ベンチャー企業AgIC(エージック)は、東京大学で生まれた。清水信哉さんは、「銀ナノインク」のペンとプリンタを実用化し、教育界に新しい「ペン」を送り込み、学びの世界を変えようとしている。
電子回路をペンで描く
AgICのペンで紙に描いた絵は、なんとそのまま本物の電子回路になる。描いた線が導線となり、チップLEDなどの電子部品と合わせると、光るメッセージカードなどを簡単に作ることができる。また、ペンと同じ銀ナノインクのインクカートリッジを使えばプリンタでの印刷も可能だ。昨年12月にはNTT docomoとコラボして、2×0.7mの世界初のクリスマスメッセージポスターを作成した。スイッチを入れるとポスター全体に組み込まれたLEDが点灯する仕組みでシーズンをにぎわせた。 AgICのペンを使えば、勉強しようという人だけではなく、アートのように楽しみながら、気づいたら回路を学んでいる、ということも可能だ。
研究者が生んだ技術を世に広める
AgICの技術が生まれたのは清水さんの出身である東京大学大学院情報理工学系研究科の川原圭博准教授の研究室だ。研究を加速するために回路を素早く試作・試験する必要があり紙やフィルムに簡単に回路をプリントできないかと考えたことがきっかけとなった。このとき清水さんは、コンサルティング会社に勤めていた。大学時代は電子回路と情報系を学んだエンジニアだが、将来自分の好きなものを作るために起業を目指し、ビジネスを学ぶ目的で就職した。かつての先生が開発した技術を知ったとき、「これを使えば、研究者やエンジニアだけでなく、アーティストや子どもたちが電子工作を楽しむことができるようになる。」と清水さんは直感した。そして、当初の目標通り、会社を辞めAgICを起業したのだ。
電子工作を気軽に挑戦できるものに
清水さんが目指すのは電子工作の「3Dプリンタ」。3Dプリンタが個人でも手に入れやすくなったために、専門家ではない一般の人たちがものづくりに挑戦するというブームが起きている。一方、電子工作系のものづくりはというと、電子回路を作るには薬品や機器、専門技術が必要で、素人にはまだまだ遠い存在だ。ペンで描いた回路に簡単に貼り付けられるLEDライトや、間違えたところを消せる消しペンも開発されている。これらと組み合わせプラスチックに簡単に電子回路が描けるペンで何ができるか?生徒たちと一緒に電子回路を描きながら楽しみながら考える授業が当たり前になるかもしれない。