海水が飲めるようになったら 由良 僚章
海水浴に行ったとき、海水を飲んでしまって、その塩辛さにびっくりしたことはありませんか。海水には約3.4%もの塩分が溶けていて、このままでは飲むことができません。しかし今、これを飲み水に変える「膜」が実用化されています。
溶けた塩を膜で取り除け
人口の増加に伴い、世界中で水資源の不足が課題となっています。地球上の水の97%を占める海水を、飲み水として利用することはできないのでしょうか。
海水に含まれる塩分の大部分は塩化ナトリウム(NaCl)で、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl ̄)とに分かれて水の中に溶け込んでいます。飲み水をつくるには、ここからイオンだけを取り除かなければなりません。そこで活躍す るのが「半透膜」です。これには直径0.6〜0.8nm(ナノメートル;1nm=100万分の1mm)ほどの見えない小さな孔あなが無数に開いています。これに水を通すと、水分子は孔を通り抜けることができますが、イオンは引っかかってしまうため、 水分子とイオンを分けることができるのです。
分子を操り、秩序正しく網を張る
より効率よく水を分離できるか、長持ちするかといった膜の性能は、素材の性質に左右されます。膜の素材となるのは、基本となる分子が手と手をつなぐようにたくさんつながって網の目をつくる大きな分子「ポリマー」です。どんな分子がどうつながるかによって膜の性能は変わります。分子が整然とつながり網目が均一に整っているほど、水分子を効率よく通過させることができます。東レ株式会社では、アミドという分子をつなげてい く重合反応を行うときに、そのつながり方を精密に操ることで、均一な網目のポリマーをつくることに成功しました。
素材の力で世界の課題を解決する
このポリマーを素材にした新しい膜によって、これまでに比べてイオンの除去率が10%も高くなりました。現在、世界最大クラスの海水淡水化施設に加え、下水から生活に使える水を生み出す施設などでもこの膜が使われています。そして、そのためにつくられた膜の量をすべて合わせると1日に3600万t、1億4千万人分の水をまかなえる分にまでなっているといいます。素材の研究により性能のよい膜が登場することで、使われる場面もさらに増えていくはずです。 将来は、みなさんの家にも海からおいしい水が届くようになるかもしれません。
取材協力:東レ株式会社 メンブレン事業第1部 由良僚章さん
詳細:東レ水処理装置のサイトはこちらです