未来の外食産業を創造する研究テーマを

未来の外食産業を創造する研究テーマを

「うまい、やすい、はやい」のコンセプトをもとに、日本を代表する外食チェーンとしてその地位を確立してきた吉野家。世界情勢や時代に合わせて変革を余儀なくされる飲食業において、業界全体のイノベーションを加速するために吉野家は新たなチャレンジを始めている。今回は、その中核を担う同社未来創造研究所の伊藤昌史所長にお話を伺った。

第28回リバネス研究費吉野家賞の情報はこちらから
http://r.lne.st/grant/blog/2015/06/01/yoshinoya2015/

新たな価値創造のために続ける挑戦

「外食産業を取り巻く環境は、産業内の競争のみでなく、他業種・業態との垣根もなくなってきており、 外食の強みを活かした差別化がこれから競争の源泉になる」と話す伊藤所長。外食産業の市場規模は 1997年の約 29兆円のピーク以降、現在では約24 兆円と市場規模は縮小傾向にある。要因は人口の減少に伴う部分もあるが、コンビニエンスストアや中食の台頭により、外食のシェアが今後少なくなるという課題もある。 また、業界内外で優位性を保ち続けるためには、大量生産大量消費による価格競争は通用しなくなってきている。「変えていくもの」は大胆に、「変えないもの」は大切に守ることで、新たなビジネスモデルと価値の創造に向けて吉野家の挑戦が始まっている。

未来を創る未来創造研究所の設立

2012年、吉野家では「未来創造研究所」を設立、すぐに変えられることだけでなく、3年、6年、10年単位で未来を創るために様々なプロジェクトを推進してきた。しかし、「未来といっても、今日や明日のことを考えることが多く、『明日創研』になってしまっていた」。伊藤所長はこうした状況に危機感を感じ、今日や明日の短期視点のみでなく未来を創る場所として、未来創造研究所を4つの機能に分ける変革に着手した。商品のプロデュースを担当する事業戦略チーム、他業種と競争力を強める新フォーマット開発チーム、既存のオペレーションの改善からテクノロジーを積極的に取り入れる未来施設設備チーム、吉野家をライバルとして新たな価値を創出する「打倒吉野家」チームの計4つを設けて、2015年1月、再スタートを切った。

研究者による未来の飲食業の ための「吉野家ラボ」

未来創造研究所で新たな価値創造のために大きな期待を寄せている活動の一つが「吉野家ラボ」。アカデミアと連携し飲食店の現場をラボとして研究を行う飲食業界全体でも先進的な取り組みだ。「うまい」の実現のためには、食材の生産、栄養、機能性など、農学、生命科学、栄養学などが重要な分野となる。また、より高度な冷蔵冷凍技術、加工調理技術、店舗の建築デザイン、設計のほか、汚れにくい素材を用いた内装や、メニューがおいしく見える光源など、工学分野にも期待がかかる。さらには、お客様に「やすい、はやい」料理を届けるためには、オペレーション効率の向上も欠かせない。注文をミスなく聞き取るための音声認識や、調理マニュアルをデジタル可視化したディスプレイ、いつでもどこでも会計ができるシステムなど、様々な分野のテクノロジーの応用が可能だ。また、店舗の投資回収や精度の高い売上予測手法などの経済工学分野も想定する。「未来の外食産業を創造しうる科学・ 技術分野を融合させ、未来の飲食業のあり方を再定義するような研究を進めていきたい。」と伊藤所長は研究者とのネットワークづくりに期待をよせる。

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▲吉野家本社1階に展示してある創業以来挑戦してきた技術の変遷や歴史

飲食業界の地位向上を目指す

目指す形は、テクノロジー、ひと、健康をキーワードとして新商品の開発、販売のみでなく、サービス面の更なる充実や従業員の労働負荷の軽減を実現する店舗だ。具体的には、女性やアクティブシニアが活躍できる店舗づくりだ。店舗スタッフとお客様とのコミュニケーションを重視する吉野家では、人の雇用は今後も店舗数とともに増やしていく計画だ。女性の社会進出や高齢化が進む中、従業員の労働負荷を軽減し、働きやすい環境を整備する。また、業界全体を見ると飲食業は長時間働くことも多く、体力が必要とされる労働集約型でもあり、産業の中でも未だに地位が低いというイメージが色濃い。3Kを払拭して労働時間や環境を変えていく。その結果として、飲食業の再定義と地位向上を目指す。様々なロボットや IT などテクノロジーが農業や工業分野で活躍を見せてきているが、飲食業界への応用はまだまだ未開拓。「未来創造研究所は将来の飲食業の価値創造のためのシンクタンクとしての役割を果たしていく」と伊藤所長は語る。「未来の会社の成長にはこの挑戦は必要不可欠。非を問うところではなく、様々な知見と視野でアイディアを実装し、価値創造を実現したい」。未来創造研究所では吉野家ラボへの研究者の参加を待っている。(文/川名 祥史)