伝統ある教育と先進的な教育の調和 高橋 公三子

伝統ある教育と先進的な教育の調和 高橋 公三子

教育現場のリーダーは今、どんな未来を見据えどんな人材を育てようとしているのか。今の子どもが大人になったとき、本当に役に立つ力とは何だろうか?取材を通して、未来をつくる教育のヒントを探る。

上野学園中学校・高等学校は、1904年に上野高等女学校として創立された歴史ある学校だ。1949年には日本で初めて高等学校に音楽科を設置した学校としても知られている。中学校では、すべての生徒が「ひとり一つの楽器」を学び、各楽器の専門講師から指導を受ける。中学を卒業する頃には全員が楽器を演奏できるようになる。「楽器に触れることで、感性を磨き、豊かな心を育んでいます」。そんな上野学園が今、未来の社会を見据え、科学教育にも注力し始めている。上野学園の挑戦について、校長の高橋公三子先生にお話を伺った。

時代に挑む「教育のカタチ」

 2007年から男女共学化すると共に進路の多様化を見据え、カリキュラムを一新した。すでに理系に注力する学校も多くある中、自校の特徴をどう出していくのか——。上野学園では上野公園に近いという立地を活かし、国立科学博物館と連携している。授業の一貫で博物館に足を運び、見学や体験、学芸員による講話を通して生徒の科学への興味を引き出している。さらに、中学生は全員が3年間で10回以上、科学博物館、動物園を訪れ、国立科学博物館による「博物館の達人」の認定を受けることを目標としている。「科学博物館に積極的に訪れるようになると、すぐに科学部ができ、理系に進む生徒も増えてきました。科学教育によって自ら身の回りの様々な疑問に気付く力が養われると考えています」と語る高橋先生。効果はすぐに出始めた。

自信と自覚をもって社会に挑む人材の育成へ

 科学教育に力を入れるようになって8年が経った2015年。上野学園は、再び新たな挑戦を始めた。普通コースと音楽コースの学びの場を共有し、双方が刺激を与え合う様に再編成した。授業もできるだけ一緒に行っている。これからのグローバル社会で活躍する人材を育成するために力を入れているのがアクティブ・ラーニング。上野公園のフィールドワークを中心としたカリキュラムである。中学1年ではサイエンスをテーマに、博物館や動物園を訪れ、生徒自身が情報収集、研究、レポート作成、発表などに挑戦する課題解決型学習を実施する。中学2年ではソーシャルをテーマに「上野公園の歴史・文化」に目を向け、中学3年ではプレゼンテーションとICT教育に力を入れる。科学的なものの見方を習得し、自分で興味をもてるものを発見し、自信と自覚をもって社会に挑む人材育成をねらっている。

 この挑戦を成功に導くためには、生徒だけでなく教員のトレーニングも、もちろん必要だ。「教員同士も付箋を使ってお互いの意見をまとめあげる研修会を行うなど、アクティブ・ラーニングを全教員が実践し、指導法の研究を進めています。さらに、専門家を招いた勉強会なども積極的に行っているところです。これから上野学園らしい教育の形を創っていけたらと思っています」と高橋先生は意気込む。

 伝統ある音楽教育と先進的な科学教育やアクティブ・ラーニングの融合を目指す上野学園の教育は、数々の挑戦を重ねながら、感性と信念をもって自分の未来に挑める人材を育成していくだろう。

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