生徒に寄り添い、自分で羽ばたく力を鍛える 武内 彰
都立日比谷高校に4年前に校長として着任した武内先生は、バトミントン部の顧問もつとめ、さらに講習の教鞭も取る。「とても忙しいですよ。でもとても楽しいです。」と満面の笑顔で語る。創立130年を超える伝統校では、2年前から若い教員も複数採用している。新しいアイデアがつぎつぎと生まれ、積極的に実践が始まっている。
自分で走り抜ける力を身に付ける
日比谷高校の理念は「文武両道と自主自律」だ。社会を引っ張るリーダーを育てるために、幅広い視野を持ち、学問の素地を養うことを大切にしている。生徒は2年生まで文理関係なく全ての教科を学び、大学で専門知識を学ぶための知の基盤を固める。さらに、学問だけではなく、体育大会、星陵際、合唱祭の3大行事や部活動を通して、人間性やチームワークを磨いていく。様々なことに取り組む生徒たちの成長のために、教員の適切なサポートが重要となる。「日比谷の生徒は力がある子が多いです。しかし、いくら勉強が得意であっても、やっぱり人間です。落ち込むことだってあります。そんなときに教員がどう支えてあげられるかが重要なのです。教員には、一人一人の力を信じて後押しをしてあげてください、と言っています」と武内先生。生徒の能力を、学問に限らず多方面で伸ばしてあげることが、自立への道につながる。そのための、どこまでも「生徒に寄り添った教育」が日比谷高校の教育の根幹にある。
8人で320人を見守る
「生徒に寄り添った教育」を実現するために日比谷高校では一クラスを一人の担任が見るのではなく、一学年をその学年の担任全員で一致団結して見守るというスタイルを始めている。ある生徒は部活ではものすごく頑張っているけれど、成績が最近落ちている。これまでは、部活の顧問は部活のことだけ、担任は成績のことだけしか知らず、どちらもその生徒の一面しか把握できなかった。クラスではなく学年を見るというスタイルを取り入れた現在では、それぞれの教員が担当クラスの生徒以外にも意識を向けやすくなり、生徒の様々な面の情報交換が活発になっている。さらに、生徒それぞれの成長はデータベース化され、教員がいつでもアクセスできるようにしている。どの教員も生徒をより深く理解することができ、何か問題がある時は手を差し伸べることができるのだ。「あの先生だとこう、この先生だとこう、と先生の間で指導の内容が異なると生徒は混乱します。 教員が目線を合わせて一貫した指導をすることが安心感につながる。だから、担任8人で一学年320人を見守りましょう、そう決めたのです。」 一貫した指導をするために、日比谷高校では、学校の重要な方針を伝えるときは、学年集会を開く。生徒、教員が一同に会しているところで共通のメッセージが伝えられる。
「こういった取り組みは、先生方から上がってきます。最近、校舎の改修工事が終わり、大職員室ができました。最初はいままでの伝統に従って教科ごとで机を配置していたのですが、教員の方から、学年の中でのコミュニケーションが大切だから学年ごとの島にしてほしいと要望があり、そのように変更することもしました。先生からの建設的な提案は、ぜひやってみなさい、と言うようにしています。目まぐるしく社会が変化するなか、教育においても変化を織り交ぜることも大切だと思います」。より生徒に寄り添った指導をするにはどうすればいいか、教員は日々試行を重ねている。
授業で火をつけたい
日比谷高校では生徒の成長を促すために授業の質を高めることにも挑戦している。「やっぱり基本は授業です。授業でこどもたちに火を付けたい。それには、一方向の授業ではなく、生徒と先生が一緒に作り上げることが重要なのです」。武内先生自身による物理の講習では、「自転車を漕ぎながら手に持っているボールを下に落としたら、どこに落ちると思う?」というような問いかけから始まる。「引力は下に作用するからまっすぐ下に落ちるよ」「いや、自転車からバッグを落とした時に、後ろに落ちてしまって戻ったことがあったから、後ろに落ちると思う」「いやいや、自転車が前に進んでいるのなら、それと同じ速さで走っているから、斜め前に落ちていくはず」生徒からは様々な意見が上がる。それから、先生と生徒は校舎の外に出て実際に試してみるのだ。その後になぜそうなるのか、物理を学ぶ。「先生は、生徒に常に投げかけをし、生徒は考え応答する。その掛け合いの中で、だんだん授業が白熱していく。そんな双方向の働きかけから成る授業は生徒の知的好奇心を刺激し、大学でさらに専門的な学問を追究する原動力となるはずです。出来る限り双方向の授業を進めていきたいと思っています。」と武内先生。双方向を意識した授業の取り組みは、生徒の授業満足度にも現れ始めている。測定を開始したときは60%だった満足度は、75%まで上がっている。そして、今ももっと良い授業を教員全体で目指している。
行事、部活、授業と学校生活のすべての側面において、全員で支えてあげること。それが、最後は自分で走り抜ける力を養うことにつながる。武内先生を含め、日比谷高等学校の教員はまるで家族のように、生徒ひとりひとりに寄り添う教育を実装し始めている。
【学校情報】
東京都立日比谷高等学校
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-16-1
Tel:03-3581-0808 Fax: 03‐3597-8331
ウェブサイト: http://www.hibiya-h.metro.tokyo.jp/
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