リバネス24周年、「問い」を次世代へつなぐKMLxを開催 〜時空を超えて、概念を継代する挑戦〜

リバネス24周年、「問い」を次世代へつなぐKMLxを開催 〜時空を超えて、概念を継代する挑戦〜

一つの世代では、答えの出ない問いがある

一つの研究で、世界はすぐには変わらない。
一つの世代で、答えの出ない問いもある。

それでも人は、問い続ける。自分の世代では結論にたどり着かないかもしれない問いを、わからないものとして抱えたまま、次の世代へ手渡していく。その継承の中で、知識は単なる成果ではなく、文化になっていく。

株式会社リバネスは、設立24周年を迎えた2026年6月14日、TAKANAWA GATEWAY Convention Centerにて「Knowledge Manufacturing Leaders X(KMLx)2026」を開催した。

KMLx(Knowledge Manufacturing Leaders X)とは、「時空を超えて継代する概念」を生み出す場である。ここでいう概念とは、単なるアイデアやスローガンではない。ある問いに触れた人の世界の見方や行動が変わり、研究、産業、教育へと受け継がれながら、次の世代の挑戦を生み出していくような、新しい世界の捉え方である。

なぜ「継代する概念」が必要なのか

本当に社会を変える挑戦は、一世代では完成しない。

サグラダ・ファミリアは、144年にわたり、多くの思想家、設計者、職人によって受け継がれてきた。そこにあるのは、完成までの工程表だけではない。自分たちの世代では完成しないものを、それでもつくり続けるという意志であり、次の世代がその意志を受け取り、更新しながら前へ進めるための概念である。

研究もまた同じである。生命とは何か。人類は地球でどう生きるべきか。夢を社会の中でどう育てるのか。こうした問いは、一人の研究者、一つの研究室、一つの企業の中で完結しない。答えが出ないからこそ、問いを閉じずに残し、次の世代が受け取れる形にしていく必要がある。

お金を稼ぐビジネスは、その先にある。まず必要なのは、知識が世代を超えて受け継がれ、問い続ける人が増え、異なる知が結び付き、新しい挑戦が生まれ続ける土壌である。KMLxは、その土壌をつくるための実践の場である。

井上浄(株式会社リバネス代表取締役社長CCO)

第一部:人間中心の問いを、地球の側から開き直す

今回の企画では、「人間は、地球でどう生きるのか」をテーマに掲げた。

しかし第一部で浮かび上がったのは、この問いそのものをもう一段深く捉え直す必要性であった

「人間は、地球でどう生きるのか」と問うとき、私たちは無意識のうちに、人間を主体に置き、地球をその環境や資源として見てしまう。だが、人間は地球の外側から地球を利用している存在ではない。光合成によってつくられた物質を食べ、微生物や分解者の働きに支えられ、物質循環とエネルギーの流れの中で生きている存在である。

第一部では、都筑幹夫先生、髙橋伸一郎先生、大森正之先生の3名が登壇し、人間の営みを「つくる」「食べる」「地球をめぐる」という3つの視点から捉え直した。

地球上の生命は、光合成によって有機物をつくる生産者、それを食べる消費者、そして分解し再び循環へ戻す分解者の関係の中にある。さらに、その営みは物質循環とエネルギー発散という大きな流れの中で成立している。人間もまた、その循環の外側にいるのではない。食べ、つくり、使い、排出し、分解され、再び地球の循環へ戻っていく存在である。

都筑先生が語ったのは、「つくる」営みである。微細藻類をはじめとする光合成を行う生き物は、光をエネルギーとして受け取り、水を分解し、酸素を発生させ、CO2を固定する。都筑先生の研究の原動力には、カルビン・ベンソンサイクルにおける生化学的な反応系の美しさへの感動があった。CO2が取り込まれ、複数の酵素反応を経て有機物へと変換され、再び次の反応へつながっていく。その物質変換の秩序と循環の見事さに惹かれたことが、研究を続ける力になってきた。

ここで示されたのは、生産者とは単に有機物をつくる存在ではなく、地球環境そのものをつくり変えてきた存在であるという視点である。人間が何かをつくる以前に、地球にはすでに、光を受け取り物質を生み出す営みがあった。人間の生産活動もまた、その巨大な「つくる」営みの中で捉え直される必要がある。

都筑幹夫 先生(東京薬科大学名誉教授)

髙橋先生が語ったのは、「食べる」営みである。食べることは、消費者として栄養を摂取する行為であると同時に、資源、代謝、健康、環境負荷、社会構造をつなぐ行為でもある。髙橋先生は、次世代栄養学やPlanetary Healthの視点から、個人の健康と地球環境を同時に考える必要性を示した。

これまで食の研究や産業は、いかに供給するかに大きく注目してきた。しかし、なぜ需要を設計する研究は十分に行われてこなかったのか。さらに、農業は人類を支えてきた一方で、地球環境に大きな負荷をかけてきた営みでもある。食べることは、人間の生命維持のためだけにあるのではない。人間の需要そのものを問い直し、地球と人の健康を同時に成立させる仕組みを設計することが求められている。

高橋 伸一郎先生(東京大学特任教授)

大森先生が語ったのは、「地球をめぐる」営みである。大森先生は、藍藻と60年にわたり向き合ってきた。藍藻はかつて、光合成によって地球に酸素をもたらし、環境を大きく変えてきた存在である。さらに、砂漠のような過酷な環境でも生きられる藍藻は、火星でも生きられるのではないかと考え、宇宙に藍藻を打ち上げた実験もある。

大森先生は「自然は人間より強い」と語る。自宅の庭で木や草の根を見ていると、地面の下では、それぞれが生きるために激しく戦っている。植物をみて「怖い」とさえ思うこともあるという。人間がいなくなったとしても、自然の営みは止まらない。だからこそ、人間が考えられる範囲で精一杯考え、意志を持つ人々が社会を動かしていくことが必要である。大森先生は、そのような人々が社会を動かせば「絶対うまくいく」と語った。地球をめぐるとは、地球の中で生きている一員として、人間が何を選ぶのかを考え続けることである。

大森正之 先生(東京大学名誉教授)

第一部では、井上が提示した「人間は、地球でどう生きるのか」という問いを起点に、都筑幹夫先生、髙橋伸一郎先生、大森正之先生との議論が展開された。そこで共有されたのは、3名の研究成果そのものではなく、人間中心の問いの立て方そのものを問い直す視点であった。「人間は、地球でどう生きるのか」という問いは、重要な入口である。しかし、その問いを深めていくと、人間だけを主語にしたままでは捉えきれない世界が見えてくる。

人間を中心に地球を考えるのではなく、つくるもの、食べるもの、分解するもの、めぐる物質、宇宙に発散するエネルギーの中で、人間を捉え直すこと。第一部は、「人間は、地球でどう生きるのか」という人間視点の問いを、地球の側から開き直す時間であった。

第二部:問いを受け取り、人間を地球の循環の中に置き直す

第二部「レジェンド&次世代研究者のワークショップ」では、第一部で開かれた視点を受け継ぎ、第一部で登壇した3人のレジェンド研究者と次世代研究者が同じテーブルを囲んだ。

参加した次世代研究者の専門は、分類学、ロボティクス、ゲル材料、未利用資源、ウェアラブルデバイス、音響芸術、宇宙環境研究、環境科学など、多岐にわたる。扱う対象も、微生物、動物、材料、身体、音、宇宙環境、資源循環と幅広い。それぞれの研究は一見ばらばらに見えるが、議論の中では、人間を取り巻く循環の一部として接続されていった。

この場で目指したのは、生産者が物質をつくり、消費者がそれを食べ、分解者や微生物が循環へ戻し、さらに物質とエネルギーが地球規模でめぐっていく。その流れの中に、自分の研究がどのように位置づくのかを捉え直すことであった。

都筑先生のグループでは、光合成やミミズの分類学、ロボティクス、ゲル材料などの視点が交差した。研究の原点にある「知りたい」「美しい」という感覚を、社会に役立つ形へ単純に翻訳するのではなく、どうすればそのまま未来へ残すことができるのかが議論された。

髙橋先生のグループでは、未利用資源、ロボティクス、ウェアラブルデバイス、健康計測などが結び付いた。食を、供給する側だけでなく、需要をどう設計するかという視点から捉え直し、人の身体と地球環境の両方にフィードバックする仕組みが議論された。食べることは、個人の健康管理に閉じた行為ではなく、地球との関係を設計する営みとして再定義された。

大森先生のグループでは、生命科学、環境科学、ロボティクス、音響芸術、宇宙環境研究などが交差した。生命を一つの個体として見るのではなく、物質、エネルギー、環境、技術、音の流れが重なり合う場所に立ち上がる現象として捉える議論が行われた。生きるとは、固定された存在であることではなく、複数の循環の交点として変化し続けることであるという視点が共有された。

研究室から社会へ、「問い」を開く

クロージングでは井上から、本質的な問いを中心に据えた対話を、社会へ開いていく必要性が語られた。

これまで、こうした問いは「研究室」という限られた場の中で育まれてきた。しかし、地球規模の課題が複雑化する今、研究者だけで問い続ける時代ではない。研究者、企業、教育機関、そして多様な立場の人々がともに問いを育て、新しい概念を生み出していく場が必要である。そこでは、まだわからない問いを、わからないまま引き受け、次の世代が続けられる形にして手渡していく営みがある。

研究室の中で育まれてきた知の営みを社会へ開き、異分野・異世代がともに問いを育てる。KMLxは、その第一歩である。

 

参考)次世代研究者により語られたことは以下のリリースを御覧ください。

【実施報告】KMLx 2026にADvance Labメンバー​​5人が登壇しました(10代~22歳の次世代研究者が集う研究所 ADvance Lab)