栄養学の研究が、新しい常識をつくる|加藤 久典

栄養学の研究が、新しい常識をつくる|加藤 久典

東京大学 総括プロジェクト機構 総括寄付講座「食と生命」 特任教綬

体脂肪の吸収を抑える,血液をきれいにしてくれる,美容にいい。機能性を謳う食品や食材はたくさんある。「しかし,体にいいといわれるものでも,実際に体内で何が起こっているのかわかっていない場合が多いのです。科学者としては見過ごせない」。そう話すのは,東京大学で栄養学を研究する加藤久典さんだ。

正義感が突き動かす

食べたものがからだの中でどのような影響を及ぼすのか,そのメカニズムを知りたくてこの分野に進んだ。当時,生き物を設計図であるDNA から理解する分子生物学の手法が登場したばかり。これを使えば,知りたかったことがわかるかもしれない。加藤さんはすぐさまこの新しい手法を使用した分子栄養学に取り組んだ。現在では,摂取カロリーを増減させたり食品成分を実験動物に与るなどした後,2 万以上ある遺伝子の異変や働きを同時に調べることも可能となっている。遺伝子解析を用いた栄養学の実験は世界中の研究室で行われるようになり,大量のデータ解析をもとにした研究結果が生み出されつつある。加藤さんの熱意が栄養学分野を変えようとしている。

赤ちゃんにきちんとした栄養を

これまで「常識」として知られていたことに異議を唱える研究結果も出ている。赤ちゃんを妊娠した女性に対して,これまで「妊娠しても体重増加を控えるように」といわれていた。胎児は胎盤を通して母親から栄養をもらうため,栄養が少ないと低体重の新生児が生まれやすいが,遺伝子的な変化はないのだろうか。加藤さんは,低栄養の母ラットから生まれた仔ラットと孫ラットの遺伝子を調べ,高血圧などに関連する遺伝子に変化が生じていることを発見した。このように、低体重の新生児は大人になってからさまざまな生活習慣病になるリスクが高くなることがわかってきた。
こうした研究が蓄積され、厚生労働省は妊婦さんの栄養指導の指針を「お母さんと赤ちゃんにとって望ましい量に」という表現に変更した。
身近なだけに,多くの科学的根拠を持たない「常識」が多く見られる食の世界。「人類の生活のために,我々研究者はがんばっています」。と加藤さんは意気込む。みなさんも,毎日自分が食べる食事に,目を向けてみませんか。

加藤 久典(かとう ひさのり)プロフィール:

1988 年,東京大学大学院農学系研究科博士課程中退。博士(農学)。同大学助手,宇都宮大学農学部助
教授などを経て,2009 年より現職。
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/food/index.html
提供:株式会社はなまる
株式会社はなまるは,「健康」を皆様に届けることを目指し,その一環として食の未来を創る研究を応援しています。また,こうした研究に取り組む研究者の情報を積極的にお届けしていきます。