宇宙へ行ったリスザル「Gordo」

宇宙へ行ったリスザル「Gordo」
1958年12月13日、イヌに続き、ヒトとより近縁な動物が宇宙へと旅立ちました。アメリカ合衆国フロリダ州のケープ・カナベラルから打ち上げられたロケット「ジュピターIRBM」に乗っていたのは、リスザルの「Gordo」です。

宇宙に行ったサル -リスザルの「Gordo」-

みなさんは、「宇宙へ行ったサル」と聞いてどんなサルを思い浮かべるでしょうか?ニホンザルでしょうか?それともチンパンジーでしょうか?ひとえにサルといってもかなりの種類がいますよね。その中で、初めて宇宙に送られたのはリスザルでした。とても小柄で、愛くるしい姿をした、ペットとしてもたいへん人気があるサルです。
リスザルが選ばれたのは、狭いロケットの中でも自由に動けると考えられたからです。残念ながら帰還する際にGordoが乗っていた部分のパラシュートがうまく開かず、Gordoは生きて帰ってくることはできませんでした。
しかし、この後何匹かのサルが打ち上げられ、宇宙へ行ったあとの脳や神経の変化などが調べられました。

リスザルってどんなサル?

リスザルはもともと、南アメリカの北部に数百頭の群れで暮らしています。分類学的には広鼻下目オマキザル科リスザル亜科リスザル属に属します。

図のように、サルとは大きく原猿と真猿に分類でき、そのうち真猿はさらにその鼻の形で広鼻類と狭鼻類の2つにわけられます。広鼻類は主に樹の上で生活するのに対し、狭鼻類は地上で生活します。さらに、広鼻類の多くは個体によって「色の見え方が違う」という面白い特徴があるのです。

いろいろな「色」の生まれ方

私たちの周りは、「色」であふれています。それは時に自分自身を表現する指標であったり、単に好みであったり、重要な判断基準であったり…。私たちの生活における、何かを識別するための要素のひとつです。でも、そもそも私たちはどうやって色を見分けているのでしょう?そのしくみは、眼の内側で光を受け取る「視細胞」にあるのです。
私たちの眼に入ってきた光は、視細胞によって受け取られます。ヒトの場合、視細胞には光そのものを受け取る桿体(かんたい)細胞、そして青、緑、赤3種類の光をそれぞれ受け取る3種類の錐体(すいたい)細胞の合計4種類があります。色の認識は、この3種類の錐体細胞がそれぞれどれくらいの強さで担当する光を受け取っているかによって行われているのです。たとえば、私たちが「黄色い」と感じる物を見たとき、眼の中では青と緑を認識する錐体細胞が同じくらいの強さで活性化され、青と緑の中間の色「黄色」を感じることになります。
この錐体細胞、私たちヒトは3種類と述べましたが、動物によって数が異なることがわかっています。さらに、リスザルの場合、オスは2種類、メスは2種類か3種類と、数がまちまちです。さらにオス同士、メス同士の間でも、個体の間で色の見え方が違うのです。いったいどうして、こんなことが起きるのでしょう?

個体によって視物質の数が違う理由

そのわけは、視細胞の中で光を受け取る「視物質」を作る遺伝子がある場所にあります。 生き物のからだの中には「常染色体」2本セットで数組と、性を決定するためのX染色体とY染色体「性染色体」が1組あります。この性染色体のセットの組み合わせがXYのときはオス、XXのときはメスになります。もちろん、視物質の情報も染色体の中にありますが、リスザルの場合、青を認識する視物質の情報は常染色体に、赤と緑についてはX染色体に存在することがわかっています。さらに同じX染色体でも、赤の視物質の遺伝子だけを持つものと緑の視物質の遺伝子を持つものの2種類があるのです。

表1 リスザルが持つ視物質のパターン
性別 常染色体 X染色体 視物質の種類
オス   2
  2
メス 2
2
3

表1に示したように、オスの場合は1本しかX染色体を持たないので、「青・赤」か「青・緑」の2パターンの視物質を持ちます。一方、メスの場合はX染色体を2本持っているため、「青・赤」か「青・緑」を2本ずつの場合と「青・赤」と「青・緑」を1本ずつ持ち「青・赤・緑」の3つの視物質を持つ場合があります。実は、ここに進化の面白さが隠れているのです。

違う世界をみている

多くの脊椎動物は基本的にヒトが持つのと同じ3種類と、紫色を感じる視物質の合計4種類の錐体細胞視物質を持ちますが、哺乳類の多くは2種類しか持っていません。これは、ハ虫類が栄えていた時代に、哺乳類が夜行性化したためと考えられています。夜に活動するうち、暗闇でものを見る能力は発達したのですが、色を識別する能力は退化してしまったのです。しかし、一部のサルは進化の過程で昼行性に変わったため、広鼻類のような2種類か3種類か個体によって違うものや、狭鼻類のように3種類を持ち合わせているものがいると考えられています。
視物質が2種類でも色の識別に問題ありませんが、3種類あるとより細かく色を識別できるようです。また、視物質を4種類持つハ虫類や魚類、鳥類といった脊椎動物は、私たちには見えない紫外線の色を見分けることができると言われています。
なぜこのようの多様性が生まれたのか―それは約40億年前から今日まで、地球上の生物がたどってきた「進化」という過程の痕跡のひとつなのかもしれません。
【参考文献】

『人類の起源と進化』有斐閣双書(Gシリーズ) p4-31
NHKサイエンススペシャル  生命-40億年 はるかな旅 5
ヒトがサルと分かれた日/ヒトは何処へいくのか
日本放送出版協会
日系サイエンス サルの色覚が教えてくれること 河村正二
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