「自分の目で確かめる感動」を伝える理数特別実験
様々な専門領域をもつ教員が集まる甲南高校では、理数コースの2年生を対象に毎年「特別実験」を行っている。先生の専門が活かされた9個のプログラムの中から、生徒は希望するものを1つ選んで参加する。どれも基本的には一週間実験漬けというぜいたくな内容だ。この実習では臨海実習を担当している山内守明先生にお話を伺った。
教員と研究員の2足のわらじ
山内先生は、教員としての仕事をしながら、1997年から2001年にかけてJAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)の流動研究員として海洋研究のプロジェクトにも携わっていた。専門は地学で、古生物を対象に地球の気候変動を研究していた。ターゲットは大きさ200 ~ 400μmの古生物の一種、放散虫というプランクトンの化石。学校の長期休みには、海洋地球研究船「みらい」に乗り込み試料を採取、学校に戻り地層から放散虫化石を取り出し、プレパラートをつくって群集解析をする。放散虫は海水温によって種の存在比が異なることが分かっており、地層の放散虫を調べることで古水温を同定できる。先生が6地点のサンプルを調べて特定した古水温の変動は、地球の気候変動とよく相関していた。放散虫群集を使って海水温や水塊の変動を明らかにしたのは先生が世界で初めてだ。
夏の臨海実習
そんな山内先生は、毎年夏休みを利用して、生徒を連れて兵庫県の日本海側にある久美浜まで臨海実習へと出かける。初日はまず、生徒とともに実験材料となるウニの調達へと海へ向かう。途中で放卵しないように冷やしながら持ち帰り、その日のうちに放卵、受精させる。次の日、自分たちで受精させたウニの発生を観察する。甲南大学の先生の協力のもと、発生阻害剤を使った実験も行う。
この実験と並行して、海水の水質調査も行う。クルーザーに乗って採泥や採水、プランクトンの採取を行ったり、多項目水質計を使って水温や塩分濃度、pHやクロロフィル濃度の測定なども行う。生徒たちは、海面では28℃あった水温が、10mの深さでは10℃と相当冷たくなるというようなことを実際に海水に触れ、自分の目で確かめて実感するのだ。
発見する喜びは実体験から
先生がこだわるのは本物に触れること。ウニの発生は教材のプレパラートを使えば簡単に観察できるし、水深と温度の関係も文献に載っている。しかし、目の前で受精卵が動いたり、発生の時間感覚を知ったり、ロープを下ろしてとってきた海底の泥から、硫化水素やメタンのにおいがただよってくることなどは、実験室だけでは体験できない。一方で、今の高校生はインターネットなどできれいな画像を簡単に見ることができるため、実体験における感動がうすくなっているという。「目の前の体験にびっくりできる子は、発見する喜びをもっている。様々な体験を通してそんな生徒を増やすことが目標」と先生は語る。