材料力学の視点でコラーゲンを「再発見」する 山本憲隆

材料力学の視点でコラーゲンを「再発見」する 山本憲隆
理工学部 機械工学科 山本憲隆 教授

腕や脚の関節部分で,筋肉と骨をつなぐ「腱」,骨のクッションになる「軟骨」。どちらもコラーゲンというタンパク質が集まった線維が材料となっていますが,引っ張る力を受けることで腱に,圧縮する力を受けることで軟骨に姿を変えます。私たちのからだは,かかる力に応じて形や物理的な性質を変化させ適応する「リモデリング(再構築)」能力を持っているのです。

世界初の発見者になる

元々,モノづくりが好きで機械工学科へ進学した山本先生でしたが,大学院を卒業して初めて「バイオメカニクス」という新しい学問に出会いました。機械工学の基本となる力学的な視点から,生体材料を解析しようというこの分野は,まだ歴史が浅く,「いろいろな実験装置をつくれる自分が,世界に先駆けてデータを出すことができるチャンスかも」とその可能性に惹かれました。特に先生が注目したのは,金属材料にはない,生体材料の特性のひとつ「リモデリング」でした。

変化するコラーゲンの謎を発見

山本先生まず先生は,腱のリモデリング能力を実験で調べました。ウサギの太ももの筋肉につながった膝蓋骨<しつがいこつ>と,膝下の骨との間をワイヤでつなぎ,膝蓋腱(しつがいけん)に力がかからないようにします。すると,たった2週間で腱の強度は元の10分の1ほどにまで弱くなってしまったのです。

腱と同じように,骨も力がかからないと弱くなることが知られていますが,骨の場合,骨をつくる骨芽細胞と,骨を破壊する破骨細胞の2種類の働きのバランスによって強くなったり弱くなったりするのです。ところが,主にコラーゲンでできている腱にはほとんど細胞が存在しないため,どうやってリモデリングが起こっているのか,大きな謎が残されています。

分野を超えた研究で新たな知見を見つける

生体材料としてのコラーゲンについて理解を深めるため,金属の強さを測定する際に使われる「引張試験」を応用しました。生物学ではあまり用いられない解析方法ですが,装置を改良することで,0.1μmほどのコラーゲン線維の強さを測定することに成功しました。その結果,驚くべきことに同じ太さの鉄と同等の強度を持つことがわかってきたのです。

コラーゲンを生体材料としてとらえる研究は,まだはじまったばかりですが,「細胞によってつくられたばかりの弱いコラーゲンは,外部からの力がきっかけとなり,構造が変化して強い線維に成長するのでは」と先生は予測しています。

材料力学の視点を生物研究に持ち込み,世界初となる新たな知見を発見するため,先生は今日も実験を重ねています。