生産現場レポート―トマト・マンゴー農家の現場から 長嶺果樹園 長嶺純氏

生産現場レポート―トマト・マンゴー農家の現場から 長嶺果樹園 長嶺純氏

沖縄本島の南部に位置する豊見城市饒波地区は、マンゴーやトマトを主要生産品目とし、特にトマトは県内シェアの60% を占める生産高を誇っている。その豊見城市中央部を走る那覇空港自動車道の高架下に、長嶺果樹園のビニールハウスが広がる。祖父の代から続く果樹園で農地を受け継ぎ、家族とともに新しい世代の農業に挑戦しようとしている長嶺純氏にお話を伺った。

3世代続く農家として

「小学校の頃は、帰宅して祖父の作業を手伝うのが日課だった」と話す長嶺氏は、物心ついたときから将来は農家になることを決めていたそうだ。高校を卒業後、社会経験をつむためにいくつかの職を経て、今から約10 年前、27 歳のときに実家の農業を手伝うこととなった。
長嶺果樹園では、マンゴー、ミニトマトの2品目を全てビニールハウスで栽培しており、マンゴーは2,300 坪で年間約10 トン、ミニトマトは800 坪で約14 トンを生産している。2012 年度には、ミニトマトの出荷量、植え付け面積、色、形、糖度等が総合的に評価されて、沖縄県野菜品評会ミニトマト部門にて金賞を受賞したほどの実力をもつ。
現在は、収穫した全てを農協に卸しており、安定した生産量と品質を維持するために、栽培する品種は1種類に限定している。しかし、長嶺氏自身は、悪天候や病気の蔓延を考慮して、多品種栽培への転換を考え始めているという。最も危惧するのは、トマトに見られる「黄化葉巻病」だ。この病気は、トマト黄化葉巻ウイルスによって引き起こされる感染症で、葉柄の巻き込みや株の萎縮などの症状が現れる。一度感染してしまった植物体は根ごと処分するしかなく、対処方法としては、施設の周りにネットを張り、媒介虫の侵入を防ぐしかない。この病気に耐病性のある品種も作出されているが、耐病性のない品種に比べて、色や形、糖度が落ちてしまうというデメリットがある。2010 年は、色や形が優れた品種を栽培した結果、病気が蔓延し、生産量が半減してしまった。

新しい挑戦へ

「自分の代になったら、品種改良に挑戦したい」と長嶺氏は話す。黄化葉巻病に対する耐性をもちながら品質の向上をも実現する新しい品種の栽培を目指し、研究機関との連携も視野に入れて積極的に勉強会にも参加している。品種改良の他に、もう1つ長嶺果樹園が抱えている問題の解決にも意欲的に取り組んでいる。「やはりトマト単体を販売しているだけでは限度がある。出荷できないロスの部分も含めて、付加価値の高い加工品を作りたい」と話す長嶺氏は、昨年、地元豊見城市で開催された農商工連携プロデューサー養成塾に参加し、異業種の方々と商品開発について学んだ。セミナーを通して試作したトマトジャムは展示会において約3,000 名のお客様から好評を得ることができた。
生産者部会でも若い世代が徐々に増えている一方で、新しい考えが受け入れられることはまだ少ないという。長嶺氏のような、豊見城の次代の農業を担う若手生産者に多いに期待したい。