バイオマスエネルギーの意義と現状

バイオマスエネルギーの意義と現状

二酸化炭素排出量を削減するための世界的な取組みが進む中、その議論の中心の1つが、“Renewable Energy”であろう。この言葉は、日本では「再生可能エネルギー」と訳されるが、正確には石油や石炭などの化石燃料や、鉱物などの地下資源である枯渇性資源を利用しないエネルギー資源を指し、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」によって、「エネルギー源として永続的に利用することができると認められるもの」と定義される。太陽光や風力、地熱など再生可能エネルギーには様々なものが含まれているが、その中でもバイオマスエネルギーは重要な位置を占め、農学研究が最も貢献できる分野だ。

農林水産と再生可能エネルギー
農林水産と再生可能エネルギーの関係を考えたとき、例えばトウモロコシやサトウキビのような“生産物”そのものがエネルギーへ変換できるという点は大きな特徴であろう。現在、バイオマス資源と呼ばれるものには、大別すると2 タイプがある。1 つは生産過程やあるいはその外で、これまでに使用されていなかった未利用資源。もう1 つはこれまでに捨てられていた廃棄物系資源だ。前者には、間伐で出る木材や稲わらなど非可食部位などのバイオマスが含まれる。後者には、食品残さや建築廃材、畜糞があげられる(図1)。これらは、粉砕などの物理的破砕や熱化学的処理、生化学的処理を経て、ペレットやガス、エタノールなどの形態でエネルギー源として供給される(図2)。

求められる、バイオマス利用の高度化・商業化
なぜ、バイオマスエネルギーに期待がかかるのか。これは、再生可能エネルギーそのものの特質に理由がある。風力や太陽光による発電で地域内の電力をまかおうとすると、季節や天候、発電を行う地域によって大幅にエネルギー生産量が変化する。つまり、安定性に欠けるのだ。したがって、地域内のエネルギーを賄うために余剰または不足が生じ、他地域からのエネルギー流入が必要となることが想定される。このような残余電力をカバーできる他のエネルギー源が必要であり、天候や季節にある程度依存しない安定的な再生可能エネルギーとして、バイオマス利用が注目されているのである。ドイツでは、2050 年までに電力の80%を再生可能エネルギーで賄うことを目標に設定しており、豊富な森林資源を活かした木質バイオマス、畜産業から排出される畜糞を利用したメタンガスなどの活用を促進している。また、ブラジルでは、政策面での後押しのもと、主要作物であるサトウキビから製造したバイオエタノールが一般的に利用されている。
こうした先行事例があり、また重要性が理解されているにもかかわらず、バイオマスエネルギーの利活用が十分に進んでいるとはいえない。特に、日本では1次産業の衰退により、バイオマス資源の分布が他国と比較しても薄く分散していることが課題である。

日本のバイオマス利用は進むのか
日本では、2003 年の閣議決定「バイオマスニッポン総合戦略」を受け、バイオマス利用を促進する様々な事業が実施されてきたが、政策評価が行われた2011 年のデータでは、214 事業中、効果的に稼働しているとされるものは35 事業にとどまっている。事業性や技術
レベル、制度において、まだまだ発展の余地があると言ってよいだろう。
地域ごとに様々なバイオマス資源が分在しているので、十分な量の発電量を確保するには、複合的にバイオマス資源を活用する必要があるだろう。そのための基礎となる農学関連分野における技術開発として、以下のようなものが想定される。

育種学…エネルギーに変換しやすい糖類・多糖類・油脂を効率よく蓄積する作物の育種 など

栽培学…エネルギーに変換しやすい糖類・多糖類・油脂を効率よく蓄積するための栽培技術、低コストで栽培するための技術 など

農業機械・農業工学…オンサイトでバイオマス処理を行う農業機械、コスト低減が可能なバイオマスエネルギー原料の収集、処理、貯蔵技術 など

発酵学…発酵効率を高める新規酵素やプロセスの探索・開発 など

微生物学…発酵過程の効率化につながる、あるいは油脂等を産生する細菌・酵母・真菌類の探索、バイオマスを原料とした微生物燃料電池 など

藻類学…油脂を産生する微細藻類の探索、大型藻類のバイオマス利用 など

バイオマスエネルギーに関する研究開発は、本特集内で後述するように、重点的に活用するバイオマス資源を選定、それに向けて国家戦略的に研究開発に取り組むと同時に、地域性を活かせるバイオマス利用研究を地域内産学連携により推進していく体制が望ましい
だろう。本特集内では、海外、国内のバイオマス利用の現状を追いながら普及のための方策を探るとともに、先進的なバイオマス利用研究の紹介を行う。読者の皆様にとって、将来的な研究テーマ設定や、連携推進のタネに役立てれば幸いである。