ブラジルに学ぶバイオマス利用の方策と活路

ブラジルに学ぶバイオマス利用の方策と活路

前稿の通り、日本におけるバイオマスエネルギー生産は、広く普及しているとは言いがたい状況だ。そのような中、ニーズに答えるシナリオを描くには、どのような方策が必要となるのか。バイオエタノールの普及で世界をリードするブラジルの先進事例を政策・制度の面から解剖してみる。

ブラジル産バイオエタノールの発展要因
バイオマスエネルギーが普及する方策を考えるうえで、必ず引き合いに出される事例が、ブラジルのサトウキビを用いたバイオエタノール生産である。効果的な政策と、サトウキビというブラジルを代表する作物に対する研究開発が後押ししていると考えられる。ブラジルでは、2012 年現在でのバイオエタノール利用は2,553 万キロリットルであり、これは米国の5,009万キロリットルに次ぐ世界2 位の利用量だ。気候不順により生産量が落ちた例を除いて自国でエネルギーをまかなっており、バイオマスの利用・生産においてブラジルは世界をリードしていると言ってよい。エタノール生産を後押しする政策は、燃料へのバイオエタノールの混合を義務づけた1931 年から始まっているが、動きが本格化したのはオイルショック後である。バイオマス利用が目的ではなく、喫緊の課題解決のために必要だったという点からは、我々も学ぶことが多くあるだろう。政府は1975 年にプロアルコール(Proalcool)政策を策定し、サトウキビ由来のエタノールをガソリンの代替とする後押しを開始した。1979 年にはアルコール車の生産も開始され、飛躍的に需要が伸びた。しかし、1989 年以降、砂糖の価格が上昇してエタノールの供給が不足、アルコール車はほとんど姿を消し、需要が伸び悩んだ。再び需要が伸びる要因を作ったのは、自動車各社が開発した、エタノール、ガソリンの混合率によらずに走行可能なFFV(Flex Fuel Vehicle)車の登場である。消費者は、ガソリンスタンドでその日の価格に合わせて、ガソリンとエタノールを自主的に選択して利用することができ、そのためのインフラも整備されている。サトウキビの収率を向上させる開発も、エタノール生産を後押ししている。ブラジルにとって重要な作物であるため品種改良が進められてきたのである。また、エタノールを生産する技術とともに、搾りかすのバガスを利用してコージェネレーションを行い、熱源・電力として活用するシステムの構築もなされている。ここでも、サトウキビ専門の育種を行うCanaVialis 社などの企業では、システムに活用しやすいバガスの品種改良を行っている。このように、ブラジルにおいては、主要農産物であるサトウキビとそれから生産されるエタノールを主軸においた政策、多分野にわたる研究開発、加えて供給エネルギー源を利用できる基盤整備の三位一体となった推進が、バイオエタノール大国として世界におけるブラジルのプレゼンスを向上させた要因であろう。

バイオマス資源活用の重層的戦略を
一方、日本においては各種バイオマス資源を活用するための開発が進められ、固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)の導入に代表されるように制度面での後押しも始まった。ここからが正念場と言える。ブラジルから学べば、主軸とするべきバイオマス資源の選定、原料の調達戦略、電熱併給システムの導入とモデル構築がポイントとなると考えられる。まずは、バイオマス資源の選定だ。全国的なバイオマス資源のエネルギー利用可能量を見ると、国内で最も多く存在するバイオマスは、木質系バイオマス、食品廃棄物、次いで製紙系バイオマスとなる。一方で、前述の通り、これらは全国に薄く分布するか、あるいは偏りが生じていることが容易に想像できる。したがって、これらに加えてより普遍的な稲わらやもみ殻などを含めて重点的なバイオマス資源を組み合わせて選択し、研究開発を進める必要があるだろう。次に、調達戦略についてである。使用するバイオマス資源の運搬コストや原料価格の取り決め、さらにそれをエネルギーに変換する設備規模のバランスを取ることが重要だ。木質系バイオマスでは、施設周辺の50km 圏外からの輸送が発生すると、急激に採算性が悪化するとされる。また、製材として販売するよりもバイオマス利用を行う原料として供給する方が安価になれば、原料不足が発生し、設備運営が不可能になる。これは一例ではあるが、施設周辺でどのようなバイオマス資源が入手できるのか、いくらで誰から、どの程度の量を買い取るのか、そしてそれに合わせてどの程度の規模の設備にするのか、戦略的にバランスを取ることが、採算性を向上させ、普及を広げるポイントとなる。さらに、そもそもの前提として、化石燃料と比較してエネルギー変換効率が低いことを想定する必要がある。エネルギーに変換するだけでなく、設備および周辺施設へ熱源を供給する仕組みを持つことで、採算性が向上する。そこで、コージェネレーション、あるいはトリジェネレーションシステムの導入を前提とする必要があるだろう。日本では、設備の導入コストが高いことからまだこれらのシステムの利活用が少なく、サポートする制度も少ない。また、大口の熱源供給先の確保、および熱源の利用を可能とする設備の普及を行うことが重要となる。これらの施策は、一朝一夕には構築が不可能だ。長年にわたり、進められてきたバイオマスエネルギー利用だが、制度面を含めて、まだ緒に就いたばかりと言ってよいだろう。再生可能エネルギーの利用促進が求められる中、その普及のためには40 年近く開発を続けるブラジルのように、産学官を交えた粘り強い推進が必要であろう。