地域資源のバイオマス利用事例に学ぶポイント

地域資源のバイオマス利用事例に学ぶポイント

2050 年までに再生可能エネルギーで電力需要の80%を補うことを目標とし、急速にバイオマス利用を広げているのがドイツだ。2000 年のFIT 導入後、バイオマス電力・熱利用が急速に広まり、地域の資金循環が活発化した。外部から流入する化石燃料とは異なり、地域に密着したバイオマス利用は原料調達からエネルギー消費に至るまで、地域内での資金循環を促進する。ここでは、国内地域での特徴的な取組みを俯瞰する。一方で、バイオマス利用の出口を明確にすること、既存の地域産業を圧迫しないことも重要だ。

各地で異なるバイオマスタウン構想
2007 年度から5 年計画で実施された「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発」(農林水産省農林水産技術会議委託プロジェクト)では、地域内のバイオマスを総合的かつ効率的に利用する計画が公表され、2013 年4 月末時点で全国318 地域となった。一般的なバイオマス資源活用を考えたとき、原料となるバイオマスの確保、運搬、貯蔵、そして価値のあるエネルギーや素材への変換、貯蔵、運搬、利用という一連の流れとなる。また、地域特有のバイオマス資源の活用を目指すものも多い。

飯田市の木質バイオマス利用とその施策
長野県飯田市ではバイオマスタウン構想を発表しており、バイオマス資源の有効利用を進める方針を取っている。大きく分けて未利用バイオマス利用、廃棄系バイオマス利用の2 点があるが、飯田市の特徴は全地域の84%を占める森林資源の利用であろう。林業は担い手の不足をはじめ、地形的に搬出が難しいなど、様々な問題を抱えるが、これらの活性化も視野に入れ、木質ペレットの製造と利用普及を行う施策を実施している。2004 年には、民間事業者5 社が市内に設立した「南信バイオマス協同組合」が、未利用バイオマスを使用した木質ペレットの製造を開始している。また、利用普及のためにペレットストーブやペレットボイラーを市内公共施設に導入したり、これらの設備を市内事業所や住居に設置を行う場合に補助する施策を実施したりするなど、地域に密着してその利用促進を行っている。決して大規模な取り組みではないが、利用促進の部分に気を配り、描いた構想が画餅に帰さぬように施策を打っている点で好事例と言えるだろう。

地域資源を用いた産業と競合しないバイオエタノール
同様にインフラの整備を行いながら、バイオマス利用を進めている例が、沖縄県伊江島のバイオエタノールの実証試験である。伊江島はサトウキビや葉タバコ、畜産などを基幹産業とする離島だ。これらの資源のうち、特産品のサトウキビからバイオエタノールの生産を行うプロジェクトを実施したが、国産のサトウキビでは糖収量が低く、採算性に難があった。そこで、このプロジェクトを主導したアサヒビール社は、九州沖縄農業研究センターと共同で、単位面積あたりの、糖収量がこれまでの品種よりも多い高バイオマス量サトウキビを用いて試験を行った。その結果、砂糖製造とバイオエタノール製造を両立しながら、コスト試算では約40 円/L の製造コストを実現した。また、ガソリンに3%のバイオエタノールを混合したE3 燃料を公用車に利用する試みが行われた。すでに実証は終了し、エタノール生産工場は閉場しているが、地域資源を用いた本来の農産に対する影響をできる限り低減し、採算性も考慮のうえ、かつ利用インフラの整備を試みたという点では参考になる事例である。
このように、地域に密着して細やかに対応する施策、あるいは地域産業と競合しないバイオマス利用のための研究開発から実証など、バイオマスタウン構想や公的な取組みから学ぶ点は多い。これまでの取り組みを継承しながら、他地域にも参考になるポイントは広く共有していくことが、今後のバイオマス利用の発展に有益になるだろう。

地域密着型バイオマス利用
ここまで見てきた事例を踏まえ、本特集内で、国内におけるバイオマス利用の促進に向けて、1つの提言を行いたい。それは、「地域密着型」で開発と利用を進めるということである。バイオマス利用については、地域に賦存するバイオマス資源の把握と活用に向けた研究開発やシステム構築といった“学”の分野だけではなく、制度面の支援や地域経済への影響あるいは効果とその調整などの“官”の参画、利用促進のためのインフラづくりなどの“産”の参画が必須であり、これら3 つのいずれも欠かすことができない。そのためには、それぞれの各立場の視点を持って役割分担しながらも、総合的かつ共通したゴールを共有できるが重要だ。地域性のあるバイオマス資源を用いて、地域研究機関、自治体、地域事業者が連携する「密着型」の活動の中で、効果の高い活動が広がることを期待したい。
次の稿では、地域密着型の炭素循環を目指す事例を紹介する。先進的な要素技術を取り入れ地域性を重視した研究と考え方は参考になる部分が多いはずだ。