海洋バイオマスの活用 ~二酸化炭素の吸収・利活用システム~

海洋バイオマスの活用 ~二酸化炭素の吸収・利活用システム~

海という資源に恵まれた沖縄県では、その特徴を活かしたバイオマスの活用が有効である。海洋には様々な種類のバイオマス資源候補がある中、琉球大学工学部の准教授瀬名波出(せなはいずる)氏は比較的大型な藻類である海藻を題材に研究に取り組んでいる。そこには、熱伝達を専門に研究してきた経験が活きている。

炭素回生システム
国際的にも二酸化炭素の排出量削減が強く求められる中、火力発電所やゴミ焼却施設等から排出される高濃度な二酸化炭素を分離、回収、固定化して利活用する「炭素回生システム」の構築が望まれている。特に沖縄県においては、その電力のほとんどを石炭やLNGといった化石燃料による火力発電でまかなっており、炭素回生システムの実現が急務な地域といえるだろう。また亜熱帯地域に属し周囲を海に囲まれた沖縄の地理的条件は、海水温も高く、一年を通じて海藻培養が行えることから海洋バイオマスによる二酸化炭素固定を活用した炭素回生システム構築に有利といえる。

2 つのキーテクノロジー
瀬名波 氏が取り組む海洋バイオマスを活用した炭素回生システムは、その効率を高めるために2 つの重要な要素技術を取り入れている。1 つは、二酸化炭素を海水に溶解する技術だ。一般に二酸化炭素の溶解は液体中に気体をバブリングする方式が用いられるが、溶解する気体量が少なく効率が良くない。これに対して採用した新たな気体溶解法は、まさに“逆転の発想”による方式で、加圧した二酸化炭素を充満させた中に液体を通すことで大量に二酸化炭素を溶解させることができる。もう1 つの要素技術は、海藻の高密度浮遊養殖を可能とする技術だ。通常の海藻類は岩などに固着して生長するため、二次元的な面での養殖となり高密度に養殖することはできない。高知大学の平岡雅規准教授が開発した“胞子及び発芽体の集塊化による海藻養殖法”は、海藻体を互いに連結させ、単位体積あたりの養殖量の高密度化に成功している。これら2 つの要素技術により高効率・高密度な海藻養殖を可能にしている。

工学技術の水産業への転用
さらに瀬名波 氏が研究するユニークで特筆すべきテクノロジーがある。瀬名波 氏の専門分野でもある熱の伝達における知見を海藻の養殖技術に転用する技術だ。海藻の生育に関わる二酸化炭素や栄養等の生育物質伝達の原理と熱伝達の原理とのアナロジー性に着目することで、より高効率な生育物質の伝達を実現することができ、海藻の育成速度を高められることを明らかにした。「空調機などの熱交換器の開発技術が藻類の培養に転用できるなど、工学分野の開発で培った技術が農学、特に水産分野に活用できる場面は多い」と、瀬名波 氏は言う。さらなる効率化に向けて、培養液の二酸化炭素濃度、海藻表面における培養液の流れや乱れなど、従来の海藻培養研究では扱われてこなかった様々なパラメーターの影響を明らかにするため研究を続けている。このような工学と農学のアナロジー性に着目した技術の転用も含めて、高効率化には様々な要素技術の活用が不可欠といえる。

地域密着だからできる高効率モデル
バイオマス活用促進、二酸化炭素排出や熱の有効利用、食料廃棄物などの削減は、地域に密着するほど、その効率化を高めることができる。エネルギー利用の最適化をはかる取り組みとして導入が進むスマートグリッドに加えて、炭素回生システム等の資源循環のシステムも取り込むべき仕組みといえる。このようなエネルギー、資源利用を包括的に最適化する「スマートサイクルモデル」という考え方においては、個々の要素が近接することでよりいっそうの最適化をはかることができる。海洋バイオマスで見た炭素回生システムも、高濃度に二酸化炭素を排出する火力発電所等の近くに海藻の養殖場がなければ、二酸化炭素を溶解した海水等の輸送にコストがかかってしまう。これら局所的な最適化をはかるためには、地域の都市計画や地域ならではの産業によるところが大きい。地域ごとに最適化された仕組みづくりが求められる。