アジアへ浸透するジャパンブランド

アジアへ浸透するジャパンブランド

少子高齢化が進み、縮小傾向が進む日本市場から新しい市場を求めて海外に挑戦する日本企業が増加している。それを後押ししているのが、アジアにおける中国やインド、タイやマレーシアなどの新興国の経済発展である。これら新興国では首都圏だけでなく多くの中核都市が発展し、大きな消費を生む「新中間層」の人口が増加している。そのような中、日本のアグリビジネス・食品系の企業が高い技術力を持って、ダイナミックに変化を遂げるアジア市場に活路を見いだしている。ジャパンブランドの食産業を世界へ広げようと挑戦している取組みを調査し、その共通項を探った。

“日本式”生産技術で農業の発展に貢献する

▲国・地域別の海外現地法人数の年率平均伸び率 (2004年度~2010年度)(上:製造業、下:非製造業) 製造業、非製造業ともに中国やその他アジア(インド、ベトナムなど)の伸びが目立つ(経済産業省「海外事業活動基本調査」から作成)。

▲国・地域別の海外現地法人数の年率平均伸び率
(2004年度~2010年度)(上:製造業、下:非製造業)
製造業、非製造業ともに中国やその他アジア(インド、ベトナムなど)の伸びが目立つ(経済産業省「海外事業活動基本調査」から作成)。

農畜産業の分野において日本の技術力は長年高く評価されてきた。形の良い野菜、管理が行き届き、品質の高い畜産物、そして多様な形状の農地に対応した農業機械。これらを強みとして海外の農業発展に貢献する形での海外進出が今、盛んに行われている。農業機械については、日本企業のプレゼンスは非常に高い。特に、タイなど工業による発展が著しい地域では、農業人口の減少が続いている。人的資源を投入しにくくなれば、少人数でも生産が可能となる農業機械がポイントなり、近年需要が急激に高まっているという。農業機械においては複数の企業が参入しているが、シェアの高い企業は機械の仕様や生産を現地化するのみならず、農業技術全般や機械の扱いについても粘り強い指導を行っている。このような貢献活動が、結果として高いシェアにつながっているのだろう。

中国山東省で循環型農業の実践を目指す「山東朝日緑源農業高新技術有限公司」は、アサヒビール株式会社、住友化学株式会社、伊藤忠商事株式会社の3社による出資で設立された企業である。中国市場におけるプレゼンスの向上、農業資材の拡販など、思惑はそれぞれだが、きっかけは山東省政府から中国の三農問題(=「農業」の低生産性「、農村」の荒廃「、農民」の貧困)の解決に対する協力依頼を受けたことだという。飼料作物や商業作物の生産、酪農を循環型で実施しながら、物流・販売までのフードチェーンの構築を行っている。2006年の設立以来、雇用創出や人材育成といった観点も加えて事業が行われており、今後の発展と地域貢献にも期待したいところだ。

独自手法で現地市場を切り開く

数々の国内食品メーカーも、経済発展を続ける新興国において、安心安全のジャパンブランドへのニーズに応えるため、生産拠点を海外へ移転してきた。日本での成功モデルをもとに独自のシステムを現地に導入し、成功を収めた企業がある。株式会社ヤクルト本社は、現在世界31の国と地域で販売を行い、海外での売り上げは全体の約24%、営業利益では約4割を占める。主要商品である乳酸菌飲料はプロバイオティクスを利用した予防医学をコンセプトとしている。新興国においては、新中間層を中心として、健康への意識が高まる一方で、貧困層においては病院に行けず、

薬を買うことができないという現状がある。このような状況の中、ヤクルトは予防医学の考え方、商品の効能を丁寧に伝え、普及に大きな役割を果たした“ヤクルトレディ”による販売を海外においても展開し、成功を収めている。現在では、スーパーや量販店での販売ではなく、国内とほぼ同数の4万人の“ヤクルトレディ”が一軒一軒を訪ね歩くという日本流の販売を行っている。商品だけではなく、ヤクルトレディという雇用も生み出すことで、現地に根付くことに成功しているのである。

上記の他にも東南アジアを面でとらえた流通システムの整備、那覇空港の物流ハブ化に代表される輸出体系の発展など、流通の発達も日本企業の海外進出の追い風となっている。上記の成功例に共通して見られるのは、現地のニーズを把握し、課題解決につながるしくみをつくることで、地域に貢献しているという点である。このような「課題基盤型研究」を通して、今後も生産者、企業と共に日本の技術が海外へ羽ばたいていくことを期待したい。