アジアへ跳び出せ 日本の農学 科学技術協力における 農学研究者への期待

アジアへ跳び出せ 日本の農学 科学技術協力における 農学研究者への期待

前回の記事(農と食を軸としたアジアへの戦略的貢献の必要性)では、アジアの急速な発展に伴い求められる「持続可能な環境低負荷型生産体系」の実現に向けて日本の農学研究者の貢献が期待されていると述べた。しかし、優れた技術だけでは、現地の人々と連携して技術協力を成功させることは難しい。開発途上国への技術貢献には、どのような視点をもつことが必要なのだろうか。

日本による技術貢献の課題

日本では従来、外交的な観点から開発途上国に多大な支援を行ってきた。その中核をなすものが政府開発援助(ODA)である。なかでも、国際協力機構(JICA)を中心に進められる「技術協力」は、二国間ODA予算のうち5割強を占め、農業・農村開発分野においては、稲作改善、家畜衛生向上、水管理向上などの技術が、農村貧困の削減に活かされてきた。しかし、近年、地球温暖化や食糧問題等の地球規模の困難な課題が生じている。そのような中、従来の技術移転の手法に加え、途上国と共同で新たな知見や技術の獲得を目指し、途上国自らが持続的に課題に対処する能力を高める「地球規模課題対応国際科学技術協力(通称SATREPS)」が注目を浴びている。

シーズプッシュ型からニーズプル型の貢献へ

SATREPSは、JICAと科学技術振興機構(JST)の共同運営のもと2008年に発足し、アジアを中心に世界39か国で77プロジェクトが採択されている。選考においては、研究提案の科学技術的価値(サイエンスメリット)のみならず、現地のニーズにマッチした協力を実現するため、想定される研究成果を将来的に社会還元へ結びつける道筋が明確かどうかが重視されている。際立った成果をあげているプロジェクトには共通点がある。1点目は、研究体制を構築する際に、相手国との役割分担を明確にし、シーズとニーズが一致するよう計画を練ること。2点目は、成果を確実に現地に根付かせるための、多様なステークホルダーとの協力だ。共同研究によって生み出された新たな知見が、現地の状況にそのまま適合できるものであるとは限らない。現地の生活様式、文化の特徴を十分に理解することが求められ、相手国の地域リーダーとの協力関係の構築や、農学だけでなく人文社会学など関連分野との連携も重要な鍵を握ることがある。

それでは、農林水産分野のSATREPSプロジェクトでは、どのような共同研究によって、どのような地球規模課題の解決に挑戦しているのだろうか。そして彼らはいかに現地のニーズに合わせた持続可能な形で技術を導入しようとしているのか。実際にプロジェクトを進める、3人の研究代表者の話を伺った。そこには、日本の農学研究が戦略的にアジアに展開していくためのヒントがあるはずだ。

sat

取材協力:JST 地球規模課題国際協力室