AgriGARAGE セミナー 「アグリプレナーが興す次世代農業」緊急レポート 多様なビジネスモデルと 技術を把握し、 自分の持ち味を活かせ
講師
株式会社日本総合研究所創発戦略センター 三輪泰史 氏
農林水産省生産局農産部技術普及課生産資材対策室 齊賀大昌 氏
アグリプレナーが押さえておくべき、ビジネスモデルや技術にはどのようなものがあるのか。第3 回のAgriGARAGE セミナーでは、アグリプレナーに求められる資質に加え、アグリプレナーにとって必要な考え方について、「次世代農業のあり方」を提言している株式会社日本総合研究所創発戦略センターの三輪泰史氏、「スマート農業の実現に向けた研究会」の事務局である農林水産省生産局農産部技術普及課生産資材対策室の齊賀大昌氏を招き、ディスカッションを行った。
一般企業の農業参入は増加しているものの収益性が課題
日本の農業就業人口の平均年齢は66 歳であり、新規就農者が少ないため一層高齢化が進むと予想されている。さらに高齢化に伴い、離農者も増え、耕作放棄地面積が増加している。一方このようななかで、農林水産省では、2020 年度までにカロリーベースでの食料自給率を50% に引き上げることをめざし、参入要件の緩和が進められており、それに伴ってこれまでに農業に取り組んでいない一般企業の参入が増加している。一般企業の参入形態は、直接農業を行い、農産物を生産する企業もあれば、農業周辺の事業、農家に農産物の生産を委託し、加工、販売を行う企業や農作業を請け負う企業などビジネスモデルも多岐にわたっている。特に、2009 年度の農地法改革以降、農地利用を伴う参入の規制緩和によって、農業に参入する企業数は約4 年間で農地法改革前の約5 倍のペースで増えている。アグリプレナーにとって、事業を開始するにあたって多用な選択肢を取ることができることを意味しており、このような状況は追い風でもある。ただ、参入した企業のうち、黒字を実現しているのは1 割程度とごく一部で、いかに収益性が高いモデルを展開できるかが最大の課題となるだろう。
スマート農業の実現による生産現場の高度化
収益性を向上させるためには、農産物の高品質・高付加価値化や適切なマーケティングによる販売ロスの低減、集約的な生産によっていかに単位面積あたりの収益を増大させるか、そして経営規模の拡大や資材の削減によっていかに生産コストを減らすか、ということがポイントとなってくる。スマート農業とよばれるコンセプトでは、センシング技術やICT の活用により精密農業を行い、同じ田畑でも今まで以上の高収量、高品質の生産を達成することをめざしている。他にも、クラウドの活用で消費者の嗜好を生産現場にフィードバックする取り組みも行われており、消費者ニーズに応えた生産システムが築かれつつある。また、ロボットやアシストスーツも活用し省力化・軽労化を行うことも視野にある。「期待されているのは、担い手や新規就農者の足りない部分をロボット技術やICT の活用で補うことで、それによって余力が生まれ経営面積の拡大や高品質な農産物の生産に力を入れてもらうことにある」と齊賀氏は話す。これらの技術が普及に向けて発展する今、スマート農業の情報をいち早く入手し、取り入れていくことが重要だろう。
生産現場の様々な場面でビジネス展開がある
また、ビジネスモデルについても柔軟に捉える必要がある。「多くの企業が農業参入を果たしているなか、業務の一部をアウトソーシングしたいというニーズが出てきている」と三輪氏はその例として分析する。例えば、生産物を流通に乗せるために集荷、洗浄、包装というフローがあるが、これまで農協や農家自身が行っていた作業を事業として行うところも出てきている。またオランダにおいては、農業試験場の研究者や優れた農家が、農業技術コンサルとなり有償で農家に対して指導している事例もある。「これからは、我が国の生産現場でも、情報を駆使したコントラクターという作業を請け負う集団が活躍することを期待している」。齊賀氏はそう語る。これは、ただ単に草刈りや収穫などの単純作業を請け負うものではない。農学の知見やスマート農業を活用して、農地の状況を把握し、施肥や収穫時期のアドバイスも行うような高度な事業展開が期待されているのだ。スマート農業では高収量、高品質生産を実現している田畑の栽培ノウハウや土壌の情報をデータ化することで、新規就農者でも高収量、高品質な農産物をつくりだせることも期待されているが、実際に栽培方法とデータを有効に活用するにはハードルが高くアドバイサーのような役割も必要となってくるのではないだろうか。
自身の持ち味を活かすことがアグリプレナーへの道
「自身で会社を起こし農業を始めるだけが道ではない。受け皿となってくれる企業で、独自のビジネスモデルやアイデアで事業を起こすようなやり方もある」と三輪氏。農業生産事業で稼ぐのか、農業周辺事業で稼ぐのかを見極め、自分のもっているアイデアやシーズをどこに投入していくかという考え方が必要となってくるのだ。例えば新しい品種や栽培方法をもっている研究者であれば、自身で農産物を生産するのが良いのか、農産物を農家に委託生産してもらい販売するのが良いのか、それをライセンスして取りまとめたほうが良いのか、展開の方法は様々だ。最後にセミナーでは、お二方にアグリプレナーへのアドバイスをいただいた。「農学の知見を有し、柔軟に先進技術を取り込みながら新しい農業ビジネスにチャレンジするアグリプレナーの活躍を期待しています」と齊賀氏。三輪氏は「農業のビジネスチャンスは5 年前とは比べものにならないほど広がっている。ただし何となく農業にチャンスがあるからと思って始めるのではなく、なぜ事業をやりたいのかという所をぜひ突き詰めて展開していくことが重要です」とアドバイスを送った。アグリプレナーが、多様なビジネスモデルと技術を把握したうえで自身の持ち味を活かし、生産現場で活躍することに期待したい。
出展:『AgriGARAGE』07号、6~7ページ
(特集扉 ― アグリプレナー 次世代の食と農林水産を切り拓く起“農”家← ・ →研究成果やナレッジで次世代の農林水産を切り拓くために)