健康の基は食からつくる ~製薬会社が描く健康の未来
〜アグリプレナーグランプリ スポンサー企業の想い〜
ロート製薬株式会社 代表取締役会長兼CEO 山田邦雄氏
一般医薬品や化粧品を主幹事業として、人々のニーズに寄り添い、私たちに馴染み深い製品を提供してきたロート製薬株式会社。21 世紀を迎えた頃からは、「健康産業に従事する者は心身ともに健康でなければならない」という考えのもと従業員の生活改善に取り組んできた。近年ではその取り組みを社外にも広げ、健康の基本である食などのライフスタイルから、再生医療など最先端のライフサイエンスまで事業領域を拡大している。製薬会社が描く健康の未来と、ともに歩むアグリプレナーへの期待について、代表取締役会長兼CEO 山田邦雄氏に話を伺った。
製薬会社がなぜ食を担うのか
製薬会社なのになぜ食の事業に携わるのか、疑問を持つ方も多いかもしれない。ロート製薬が主に扱うのは一般医薬品であり、それは健康上のトラブルを自分で治すというセルフメディケーションの世界だ。創業当時から販売していた胃腸薬をはじめとし、目薬、化粧品、サプリメントなど多様な製品が私たちの生活に浸透している。しかし、山田会長はさらに先を見ている。「これからの時代の健康について深く考えると、薬だけに頼ることは難しい。ではどうやって健康をつくるかと考えると、やはり食べることが大事だなと帰着したわけです」。病気になってから治すだけではなく、病気にならない健康な状態を自分の力でつくる、そこに知恵を使い実践していく世の中を描いているのだ。そして食こそが、その実践の核となる。もちろん健康の追究というのは昔から人類が挑戦してきたことであるが、近年の技術革新によってこの命題はこれからさらに面白くなる、科学の一分野として追究する価値が十分にあると、確信しているのだ。そのような想いで、2010 年より農産物の生産や水産物の加工、販売などのアグリビジネスに参入を開始した。2013年より「アグリ・ファーム事業部」を新設、製薬メーカーとして培った分析技術や工場管理技術を応用し、農業、植物工場、その他食品加工などの関連ビジネスを加速させている。
企業にとっても試行錯誤、研究者との連携は欠かせない
食や健康の分野では、全国の研究機関や大学で様々な研究が行われているが、なかには研究だけで終わって陽の目を見ないものも多い。企業も参画して事業化していかなければ、せっかくの優れた技術も社会に活きないことがある。「そう考えると僕らのような、今までこの分野にいなかった企業でも出番があるなと思う」。そう信じて、すでに、農業、畜産、漁業と多方面で試行錯誤を続けてきた。
例えば2013 年4月には、グランフロント大阪に薬膳のフレンチレストランと併設して都市型農園『旬穀旬菜シティファーム』を開業した。食のビジネスに参入するにあたり、まず野菜栽培に着目し、水耕栽培をベースとした「セラミック栽培」という最新技術を取り入れた。人工光を用いて、特殊なセラミックの筒内に植物が根を張り栽培養液を吸収する栽培方法で、宇宙や被災地など土がないもしくは使用が難しい環境での実用化にも期待がかかっている。また、日本有数の米どころ新潟県では、古くから天然の点滴といわれるほど栄養価の高い糀を活用し、スキンケア商品の開発・販売に挑戦している。地域貢献と日本の再活性化をめざすべく、日本の伝統食材である糀の価値と技を長年伝え続けてきた専門店、古町糀製造所との協働は心強い。他にも、南の石垣島では循環型飼料を用いた養豚事業に挑戦し、東北では復興支援のために漁業の再興も担っている。どちらの地域でも社員が現地に根を下ろし、地域の方と伴走しながら新しい事業を興しているのだ。
これらはどれも同社にとって未知の分野であり、多様な事業拡大をしているようにみえるかもしれない。しかし参画にあたって共通していえるのは、想いをともにできる、経験豊かな研究者や技術者の方々とチャレンジしていくというスタンスだ。
『旬穀旬菜シティファーム』で収穫される野菜は、隣の薬膳フレンチレストランでも使われている
ローカルを重んじながらグローバルな視野を
科学技術や製造業の分野において、高度経済成長期にめざましい発展を遂げた日本も、他国に先駆けて超高齢化社会を迎えさまざまな課題を抱えているが、人類共通の命題として健康に長生きするための食や医療の研究が盛んに行われている。今後ますます海外から期待されるのは、まさにそうした分野だ。もちろん農林水産分野では、地域に根ざして地元と親和しながら事業を進めないとうまくいかない部分もあるだろう。しかし同時に、事業化にあたっては世界を捉えるほどの大きなビジョンも望みたいところだ。山田会長は、「ゆくゆくは海外に成果をもっていこう、国境を超えて広く世界に伝えていきたい、それくらいの想いのある人にたくさん出てきて欲しい」と願っている。
<ロート製薬株式会社 代表取締役会長兼CEO 山田邦雄氏 略歴>
兵庫県出身、58歳。東京大学卒。慶應義塾大学大学院でMBA(経営学修士)取得。1980 年ロート製薬株式会社入社。取締役を経て1992 年専務取締役となり、1999 年代表取締役社長に就任。2009 年6 月から代表取締役会長兼CEO。
出展:『AgriGARAGE』07号、12~13ページ
(研究成果やナレッジで、 次世代の農林水産を 切り拓くために← ・ →うまい、やすい、はやい、そして健康に~吉野家ホールディングスがめざす食の未来)