プロバイオティクスを用いた 安全な養殖漁業の確立を目指して 星野 貴行

プロバイオティクスを用いた 安全な養殖漁業の確立を目指して 星野 貴行

ヒトの腸内細菌叢と健康との関係性を追求する研究が進み、さまざまな商品にその成果が応用されるなか、養殖分野においてもプロバイオティクス研究が始まっている。魚類の腸内乳酸菌に注目し、効率的かつ安全な養殖漁業への実用を目指す、筑波大学生命環境科学研究科の星野貴行教授にお話を伺った。

人には人の、魚には魚のプロバイオティクス研究

「水産用にも乳酸菌入りの飼料が販売されているが、実際には他の生物や用途のために開発されたものばかり」。星野教授は「人には人の、魚には魚のプロバイオティクス」をコンセプトに研究を進めている。これまで、食品や畜産分野において有用微生物を含む飼料などが開発されてきたが、水産業ではほとんど実用化されていなかった。

日本の水産業の中で、養殖業が占める生産量の割合は21.9%。世界の養殖魚介類の約90%が生産されるアジアでは、養殖産業による環境破壊や水質汚染、抗生物質の多投による食品の安全性が課題となっている。そこで、星野教授は効率的かつ安全な養殖漁業の実現のために、魚のプロバイオティクス研究開発の必要性を唱え、日本でも先駆けて研究開発を進めている。

コイ養殖への乳酸菌の活用

星野教授が注目した微生物は、ヒトで研究や実用化が進んでいる乳酸菌だ。まず、魚の消化管内における優占乳酸菌種の同定を、筑波大に隣接する霞ヶ浦の代表的な養殖魚であるコイで開始し、消化管内の優占乳酸菌種をが夏と冬で異なることを明らかにした。また、優占種から選択したプロバイオティクス候補乳酸菌株の実用レベル(網イケス)での投与試験も行い、成長促進効果や魚病予防効果が確認されつつある。霞ヶ浦のコイ養殖は2003年のコイヘルペスウィルス(KHV)により大打撃を受けたが、星野教授と茨城県との共同研究により、免疫学的手法によるKHV耐性コイの作出技術が確立され、2009年からコイ養殖が再開されるに至った。このKHV耐性コイ作出の効率が、乳酸菌の事前投与により高まることも明らかとしている。今後、免疫賦活効果に関連する遺伝子の発現解析による詳細な研究や、細菌やウィルス病予防効果を明らかにすることで、プロバイオティクスを利用した新しい養殖業の展開を目指す。

養殖産業応用への鍵はデータベース

2050年に世界人口は、90億人を超えると予測され、必要な動物性タンパク質の供給のために、養殖技術は今後ますますその重要性が高まる一方、持続可能な養殖業の実現も急務だろう。そのために、魚類用プロバイオティクス飼料が貢献する可能性は大きく、実際にブリやフグなどの海洋性の魚種の養殖においても期待が高まっている。「今後、次世代シーケンサーによるメタゲノム解析が期待されるが、魚類の腸内微生物に関連するデータベースが足りていないことが大問題で、その整備が必要だ。」と星野教授は話す。魚のプロバイオティクス研究がより広がることは、今後の世界の食料需給を支える、重要なポイントとなるかもしれない。(文/川名 祥史)

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