水中を泳ぐ、食物連鎖のキープレイヤー 「ツボカビ」
コーナー「うちのこ紹介します」では、研究者が,研究対象として扱っている生き物を紹介します。毎日向き合っているからこそ知っている,その生き物のおもしろさや魅力をつづっていきます。
ジメジメする梅雨の時期,特に気になるのがカビですね。私たちがよく見かけるカビは,「胞子」を空気中に放出し,それらがまた菌糸を伸ばし生長していくことで増殖します。
今回紹介する「ツボカビ」の胞子には,泳ぐための鞭毛がついています。この胞子は「遊走子」と呼ばれ,泳ぐ姿はまるでオタマジャクシのよう。遊走子が放出された後のがのように見えることから,「ツボカビ」と名づけられました。近年,このツボカビの遊走子が,湖や沼における食物連鎖のなかで重要な役割を担っていることがわかってきました。
ツボカビは,大型の植物プランクトンに寄生して必要な栄養を得ています。これまで,大型植物プランクトンは大きすぎるためミジンコなどに捕食されることなく,湖底に堆積すると考えられてきました。ところが,よく観察すると,大型植物プランクトンが増えたときにミジンコも増えていたのです。
そこで,フラスコの中で実験してみると,大型プランクトンに寄生し増えたツボカビの遊走子を,ミジンコが捕食することがわかりました。2〜3μm(マイクロメートル;1μm=1000分の1mm)の遊走子は,体長約1mmのミジンコが食べるにはちょうどよい大きさです。ツボカビの遊走子を食べて増えたミジンコは,ヤゴや小魚などのエサになります。
このように,ツボカビを介して大型植物プランクトンが湖沼の食物連鎖に組み込まれている可能性が出てきました。この経路はと名づけられ,実際の湖沼でも起こっているのか検証が行われています。まだ私たちの知らない連鎖経路が,じつはたくさんあるのかもしれません。 (文・鈴木 るみ)