生徒だけでなく、先生も答えのない問いに挑戦すべき 竹下 昌之

生徒だけでなく、先生も答えのない問いに挑戦すべき 竹下 昌之

Visionary School
教育現場のリーダーは今、どんな未来を見据えどんな人材を育てようとしているのか。今の子どもが大人になったとき、本当に役に立つ力とは何だろうか?取材を通して、未来をつくる教育のヒントを探る。

 相模女子大学中学部・高等部は、1900年に創設された日本女学校を礎とする相模女子大学を母体とし、2020年には創立120周年を迎える歴史ある学校だ。創立当初からこれまで、一貫して女子の教育に主眼をおき「確かな学力を身につけている生徒、女性としての品格、感受性をそなえている生徒、広く社会と関わり、社会に貢献できる生徒」の育成をめざしている。「大学進学実績をアピールする時代は終わった。学校改革はまったなしだ」と竹下先生は断言する。

知識偏重の授業から抜け出すために

 予測のつかないこれからの時代を、生徒たちが乗り越えていくためには、従来の授業スタイルではいけないという強い想いを胸に、竹下先生は新たな授業カリキュラム開発の推進を行っている。これまでは、大学入試に必要のないことは授業で扱いにくかったため、授業改革の壁になっていたが、2020年には大学入試自体が変わるため、ついに教員の足をひっぱるものはなくなる。

 竹下先生がめざしている授業は、知識偏重から抜け出し、生徒どうしが学び合える空間だ。ある程度の予備知識は授業前に与えておき、授業中はそれをもとに議論を戦わせる「反転授業」もその1つ。授業の中で、何らかの疑問がわいたとき、教員は、生徒に答えを教えるのではなく、調べ方を教える。このとき、教科書や資料集だけでなく、インターネットや図書室の本など、たくさんの手段を選択できるようにする。また、情報には誤っているものもあることを前提に、自分で情報の取捨選択ができるように導く。そして授業の最後には、1つの課題に対して生徒たちが自分なりの解を作り出し、それをみんなの前で発表をする。そして批判は受け止め、自分の解を見直す。このサイクルがあってこそ、本当の力が身につくのだ。

 また今、「アクティブラーニング」というキーワードが注目をあびているが、この考え方は、小学校では当たり前のことだと、小学校教員経験40年の竹下先生は言う。小学校の教員は、一方的に話し続けたり、板書し続けたりすることを絶対にやらない。つねに「わかった?」と児童に確認し、反応によって話す内容を変えていく、双方向のコミュニケーションが必要不可欠だ。このような小学校での教育における考え方を、中学、高校にも応用したいと考えている。

教員も改革の主体となる

 学校改革を実行するために、竹下先生は昨年、「研究部」を立ち上げた。研究部では、学校改革を達成するための数々のプロジェクトを遂行する。例えば、適性検査方式の入試問題の開発、総合的な学習の時間に行うカリキュラムの開発、国際交流、授業のICT化、などだ。1つのプロジェクトには、研究部長のリーダーシップのもと、数名の先生が任命され、様々な教科、経験年数の教員が入り混じる。目的を達成するために、教科の壁を越えて協力しあう。これまでの分掌主義はなくなり、個々の意見の言いやすい風土ができ始めている。竹下先生はプロジェクトメンバーに対し、達成すべき事項は伝えるが「何をどのようにやるか?」は伝えない。それは教員自身が考えるべきことであり、教員が主体とならなければ、本質的な学校改革は成功しないとわかっているからだ。

教員は研究者であれ

 実は、竹下先生が研究部の教員はしかり、全ての教員に対して求めることは、教員が生徒に対して授業中に求めていることと同じだ。メンバーと協力し、情報収集を行い、目的に向かって話し合い、自分たちなりの1つの解を導くこと、これを、教員自身ができないのであれば、生徒に課してはいけない。「これからの教員は、自ら主体的に研究活動を行うべきだ」というのが竹下先生の持論だ。

 竹下先生はいずれ、授業設計に脳科学の知見も取り入れたいという。教員の発問に対し、生徒の反応を科学的に分析し、生徒の考えを引き出すよりよい発問とは何かを追究していきたい考えだ。まさに、科学的根拠をもとにした新たな授業。学校改革を先導する竹下先生の野望はつきない。

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