【ワクワク対談 第三弾】創造的衝動を解放しよう

【ワクワク対談 第三弾】創造的衝動を解放しよう

株式会社ミミクリデザイン代表取締役 安斎勇樹

リバネス教育総合研究センター 前田里美

ゆったりとした口調で話し始める安斎さんが語るキーワードがその「創造的衝動」だ。それは、誰でも幼少期から持っている、ふつふつと内から湧き上がってくるエネルギーを意味する。「創造性の土壌を耕す」ためのワークショップデザイン・ファシリテーション論について研究しながら、商品開発などのサービスを展開する株式会社ミミクリデザインの代表である安斎さんに、生徒の創造的衝動、(=ワクワク?)を引き出す方法について伺った。

「尊い」衝動を起点として

前田:
リバネスの教育総合研究センターでは、生徒が主体的にものごとに取り組んでいることを「ワクワクしている」と位置付け、研究をしています。多くの学校でどれくらいの生徒が自分の興味関心を行動に移せているか、だんだんと分かってきました。安斎さんがワークショップという手法を通じて、組織からイノベーションが起こる土壌を作る上で、大切にしている考えがワクワクと共通する部分が多く、今日のお話を学校の授業や探究プログラムの指導へ結びつけられればと思っています。それでは、まずはじめに安斎さんがワークショップに興味を持ったきっかけを教えてください。

安斎氏:
私が最初に興味をもったのは、大学学部生のときです。当時、家庭教師や塾講師のアルバイトをしていたとき、受験だけに向かって勉強をしているこどもたちの姿に違和感を覚えました。「受験以外の他のものさしもあるよ」ということを伝えたかったんです。そこで、中学受験が終わった生徒などを対象に、毎月1回、僕が呼びたいと思った大人の講師を呼んでワークショップを行いました。そこで、ある日、吃音のある子であまり自分から発言できなかった子が、周りのこどもたちの注目を一斉に浴びた瞬間がありました。その場の誰もが知らない遊びを、その子だけが知っていたんです。その瞬間、その子は目を輝かせ、その後は自分から意見を言うようになり、その後のワークショップでは大人でも思いつかない斬新なアイデアを出したんです。自分にスポットライトが当たることで、その子を抑圧していたものが取り払われ、劇的に変化した。そんな変化にとても感動しました。当時は工学部生だったのですが、こんな変化を起こすことができるこの手法もっと学びたいと思い、大学院では教育工学や学習科学を専門とする学科に進み、ワークショップを体系的に研究をして今に至ります。

前田:
とても素敵なエピソードですね。一つのものさしだけでは足りないことが良く伝わってきました。受験はもちろん大切ですが、ものさしは一つではなく、たくさんあるからこそ、誰でも輝けるし、色々な方向に学び続けられるようになります。では、次にワークショップについて詳しく教えてください。

安斎氏:
ワークショップの歴史は古く、もとを辿ると1900年代のアメリカの哲学者ジョン・デューイの思想が基礎となっています。デューイは、教育における実体験の重要性を説き、「為すことによって学ぶ(Learning by doing)の言葉で知られています。そして、体験からの学びを促す一つの手法がワークショップです。僕たちが、クライアントと一緒にワークショップをやるときに一番大切にしているのは、参加者自身の内側にある情熱ややりたいこと、興味があることを起点として始まる体験です。その設計において重要となるのが、「創造的衝動」です。

前田:
何かをしたい、という行動のエネルギーの源であり、誰でも持っているものである、という点でこの考え方はワクワクと通じるところがすごくたくさんあると思っています。安斎さんが考える創造的衝動とは具体的にどういったことを指すのですか?

安斎氏:
「衝動」という言葉は、一般的にどこかあまり良くないこととして捉えられている気がします。我慢できない、やってはいけないことをやってしまう、といったネガティブな印象です。でも、「どうしても今やりたい」と思うときのパフォーマンスはものすごく良かったりする。だから、「衝動」の中にも、これを作りたい、伝えたい、といった尊いimpulse (インパルス=衝動)があると思うのです。その創造的な衝動を起点にすることで、やらされ仕事ではなくより良いプロジェクトへ繋がっていくのです。

 

先生、トイレ行ってきます! 

前田:
その創造的衝動は皆が持っているのでしょうか?だとすると、どのようにその衝動を引き出すと良いのでしょうか。

安斎氏:
皆が持っていますが、それを引き出すにはまずは抑えているものを外すことが大切です。先日、ツイッターで日本人はトイレに行くことに許可を取ることに関するツイートがバズっていました。学校で授業中に先生に許可をとっていた名残りだと思いますが、「許可が必要だ」という暗黙のルールがそこに存在し続けている。それが、トイレに行く、という行動をすぐ実行しないように抑制しているのです。もちろん、学校など集団生活の中でルールは重要ですが、そのルールが時には自由な発想や思い切った行動を抑制しているのも事実だと思います。僕たちはその抑制を意図的に外し、参加者から思わぬ発想や行動が生まれてくるようなワークショップを設計しています。

前田:
そういった働きかけは、教育の場でいうと先生が授業をどうデザインするかというヒントとなると思いました。もちろん、そこにはワークショップの設計の技術があると思いますが、それ以上にファシリテーターの人となりやマインドの部分も重要になってくるのではないでしょうか。

安斎氏:
仰る通り、スキルやテクニックも大事ですが、それ以上に大事だと思うのはファシリテーター、教育の場では先生自身が抑制を自ら外せることです。ファシリテーターが、自ら「今この話をしたい!」と思ったときに、その衝動に抗わずに自分から脱線してみる。私が大学で講義を行うときも、授業計画が崩れることを自覚しながらも、アイデアが浮かんできたときにその話をするようにしています。すると聞き手が、思いのままに発想したり、行動して良いんだ、と思って場が活性化してきます。前田さんが取り組んでいるワクワクのように、受け手に伝播するのです。

前田:
やっぱり!先生のワクワクが生徒に伝染するのと同じですね!!もちろん授業時間など考慮するべきことはたくさんあると思いますが、先生自身が、意識的に、時には興味関心の赴くままに行動することが、結果的に生徒のアイデアを引き出すことに繋がるのですね。

安斎氏:
企業の方々と一緒にワークショップをやっていると、次第に立ち上がって歩き回る人が増えてきたり、手や体を動かして伝えようとする人が出てきたり、だんだんと人が内から湧き上がる思いを自由に表現するようになっていきます。その状態がまさにファシリテーターの衝動が伝播している状態です。

  

寄り道と風土作りが活動をより豊かにする

前田:
ミミクリデザインのワークショップを通じて生まれてくる熱が感じられるようです。きっと、皆さん半ば興奮気味で没頭するのでしょうね。ただそうやって最初にアイデアを出してから、プロジェクトを進行し続けると、その勢いがやがて消えていったりしませんか?また、学校の探究活動では、グループで一つのテーマに取り組むことも良くありますが、その場合も同様の難しさがあると思います。

安斎氏:
どんなプロジェクトにおいても、スタートしたときに掲げた「これをやりたい!」という目的や「このことを明らかにしたい」という最初の問いに、長い間向き合っていくことは大人にとっても難しいことだと思います。最初の衝動は時間とともに少しずつ消えていきます。そこでまず必要なのはその問いをアップデートしていくことです。例えば、あるプロジェクトで、新しいオフィス家具を作るワークショップを行いました。アイデア出しを進めるうちに、最初は家具を作るのが目的だったのに、「オフィスってそもそもなんだろう?」という問いが生まれ、神社のような場所なのかもしれない、神社には鳥居がある。鳥居が境界線となって作っているのが結界。結界はどんな意味があるんだろう?と、どんどん新しい問いが生まれてきました。最後には、そのプロジェクトの締切を思い出し慌てて軌道修正をしましたが、このプロジェクトは今でもとても印象に残っています。

神社の鳥居の存在や、それが境界線となって作り上げる空間の発想から出来上がったオフィス家具「ADDMA」(https://supercrowds.co/projects/addma/

前田:
オフィス家具から結界へ行くんですね、それは面白い!その過程で出てきた新しい問いをそれぞれ探ってみると、また次の何か面白い発想やものづくりに繋がるヒントになるかもしれません。グループでやる場合、そういった発想をチームメンバーが多方向へ自由に広げ続けることが良いのでしょうか?

安斎氏:
オフィス家具のワークショップもそうでしたが、グループワークの場合、メンバーがそれぞれ自分の創造的衝動を発揮するために、お互いがそれぞれのアイデアや考えの多様性を尊重する関係性を築くことが大切です。お互いの考えが違うことが良いという風土の中で、多様な考えが相まって新しいインスピレーションが生まれていきます。結界に興味がある人は、どんどん結界について調査を進めていました。そうすることで、メンバー一人ひとりが自身の創造性を発揮し続けることができ、且つグループのテーマが発展していきます。

前田:
メンバーそれぞれが、自分の衝動を解放し、次から次へと問いを生み深堀りする。そんな場作りは、学校の探究活動や授業の中へぜひ活かして行きたいですね。もちろん時間やリソースの制限はあると思いますが、先生自身が脱線を楽しむことで、結果的に生徒一人ひとりの個性や感性が生きてくるプロジェクトが生まれ、それがダイナミックに成長していくのではないでしょうか。安斎さん、今日はどうもありがとうございました。


安斎氏は、3月6日〜7日に開催の超異分野学会のパネルディスカッションへもご登壇されます!
超異分野学会セッションの詳細内容、ご参加申し込みはこちらからお願いします:https://hic.lne.st/2020/01/hic2020_wakwak/

※ 超異分野学会は新型コロナウイルス感染症の影響で延期することを決定いたしました。詳細につきましては、超異分野学会Webサイト(https://hic.lne.st/)にてご確認ください。


 

話者プロフィール

株式会社ミミクリデザイン代表取締役 安斎勇樹

東京大学大学院情報学環特任助教。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学博士)。組織と個人の創造性の土壌を耕すためのワークショップデザイン・ファシリテーション論について研究しながら、商品開発・組織開発・人材育成のプロジェクトを多数実践している。主な著書に『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)、『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。

 

リバネス教育総合研究センター センター長 前田里美

高校を卒業後、渡米。Wright State University で人間工学心理学の修士、博士を取得。2010年にリバネスに入社。入社当時は、人材開発事業部所属し人材育成企画開発に携わる。2013年5月から国際開発事業部で、教員研修、中高生の国際教育企画の開発に従事。2018年4月から、リバネス教育総合研究センターのセンター長として、非認知能力の評価系と育成の研究を、学校現場の先生方と一緒に取り組む。