【調査報告】ディープテックベンチャーと作る、COVID-19制圧に向けた戦略

【調査報告】ディープテックベンチャーと作る、COVID-19制圧に向けた戦略

リバネスは2020年より「未解決の課題に対し、科学技術の集合体で解決する」プラットフォームとしてテックプランターを運営しています。2019年12月に中国でのアウトブレイクが報告されて以後、新型コロナウイルス感染症の流行が世界的に起こり、数々の未解決の深い課題(ディープイシュー)が顕在化しています。医療だけでなく、経済や文化の活動も大いに揺さぶりをうけています。根本的な感染症鎮圧には、ワクチンや治療薬の充実だけでなく、社会のルール、法規制、補償の考え方など様々なものがアップデートしていく必要があります。

こうした状況下において、未解決の課題解決を目指す技術の集合体をつくることで、経済や政策をアップデートし、新しい常態(ニューノーマル)構築を目指すのは、リバネスなりの「通常運行」です。そこで、2014年より数多くのパッションあるベンチャー企業や研究者を集めてきた中からアンケート調査(「コロナウイルス流行長期化前提のディープテックの在り方」調査、2020年4月)を行い、「この事態に向けて手を打ってきた」「これから取り組む予定だ」というチームから回答をもらいました(有効回答数156件)。

本稿ではその中から、医療インフラをアップデートするテクノロジーと構想を持つ企業を抜粋して紹介します。

目次

1.ディープテックベンチャーと作る、COVID-19制圧に向けた戦略

1 治療薬・ワクチンの開発

2 検査・追跡・隔離

3 医療物資管理と環境対応

2.アンケート結果抜粋(12社)

3.アンケート結果

 

ディープテックベンチャーと作る、COVID-19制圧に向けた戦略

治療薬・ワクチンの開発

新型コロナウイルスの流行に対して、現状では都市封鎖、検査と隔離を中心とした対策が各国で取られています。今後、経済的な停滞を脱し、自由な行き来を取り戻すには、対症療法のみならず、治療薬、ワクチンが確立されることが重要です。しかしながら、治療薬、ワクチンの開発は5-10年かかる長期戦で難易度も高いことが知られています。例えばエボラウイルス(2014-2016西アフリカ、2018-2019コンゴで大流行)に対して、未だに治療薬開発は完了していません。新型コロナウイルスに対しても、既に使われている感染症薬をリポジショニングする創薬戦略が先行していますが、より高速・効果的に創薬を進められるテクノロジーが必要です。

そこで、ウイルスや免疫に知見を持つディープテック領域のスタートアップを含む連携が重要となるでしょう。例えば、機械学習駆動の画像ベース細胞分取装置の開発をすすめるシンクサイト株式会社は、コロナウイルスに感染することで生じる細胞1つ1つの形状変化を元に、高速な薬剤スクリーニングが可能になる見通しを示しています。株式会社メタジェンは、腸内細菌叢が免疫細胞と相互作用することで全身の免疫系をコントロールしていることに着目し、個々人によって異なる腸内環境を適切に制御する技術(腸内デザイン)の開発を通じて、免疫制御による感染予防技術へとつなげることを目指しています。マイキャンテクノロジー株式会社は、ヒトiPS細胞由来の研究用血球細胞を研究機関へ届けることによって、感染症研究を加速させる取り組みをしています(2020年3月27日付けで研究機関への無償提供プログラムを発表)。

DDSや薬剤キャリアの進歩も、COVID-19制圧においては重要です。中空マイクロニードルを開発しているシンクランド株式会社は、DDS手法、特にワクチン投与におけるマイクロニードル活用について開発の優先度を高めたい考えです。シクロデキストリン誘導体合成に強みを持ち、抗がん剤などの開発を進めてきた株式会社サイディンは、シクロデキストリン誘導体の抗ウイルス作用やワクチン賦活化作用を生かした医薬品、薬剤キャリアの開発ができる可能性があります。

感染者の広がりも膨大なため、感染症の予後についても今後、注意深く影響を見定める必要があります。免疫系と精神疾患の関連の研究を基盤とする株式会社RESVOは、母体の感染症が子に与える影響について以前より取り組んでおり、免疫異常に由来する精神疾患の検査法、予防法、ならびに治療薬の開発に既に取り組んできており、COVID-19のパンデミック以降、精神疾患の増加が起きないか、それを防げないかという観点で研究開発を続けています。このように治療薬、ワクチンの確立を目指したディープテックが集積し、COVID-19制圧に向けて動き始めています。

(2020年5月7日追記)【リバネスグループ支援ベンチャー】 EME、花王、北里大学らが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体の取得に成功。コロナウイルスの感染抑制能を有する抗体(中和抗体)の取得に成功したと発表になりました。これにより治療薬や検査薬につながる可能性があります。

検査、追跡、隔離

根本的な治療薬やワクチンが登場するまでは、感染者を検査し、追跡し、隔離するという基本的な対策(米ハーバード大 Roadmap to Pandemic Resilience等)は各国で変わらない思われます。そのような環境下では、医療スタッフの命を守り、疲弊することを防いで持続可能な形にしていくことがますます重要となります。そこで医療機関において機器、施設、システムがアップデートし、より安全を担保し、遠隔・隔離した状況に適応していく必要があるでしょう。株式会社木幡計器製作所は、医療機器である呼吸機能測定や、医療ガス残量モニタリングなど計測センシングとIoT分野の製品開発をすすめてきています。IoT対応の聴診器「超聴診器」の開発を進めるAMI株式会社は遠隔聴診による医療従事者の院内感染リスクの低減や、生体音解析技術の応用による聴診のデジタル定量化に取り組みます(2020年4月28日付けでCOVID-19遠隔聴診プロジェクトを発表)。また、Holoeyes株式会社は、VRによるカンファレンスサービスを提供し、遠隔地にいる医師が、VR空間上で同じ骨や血管をみながらカンファレンスができる仕組みを構築しています。医師どうしのコミュニケーションを助け、院内感染を防ぎ、通常の医師育成を担保するためのアプローチの1つとなるでしょう。センサメーカーであるボールウェーブ株式会社は、ウイルス検知や、呼気に含まれる疾患起因物質の開発を手掛ける可能性も見据えている。同社のセンサーで検出可能になれば、建物レベルでの管理が迅速・自動的にできるようになるでしょう。

(2020年5月7日追記)木幡計器製作所を中心とした取り組みが日刊工業新聞に掲載されました。(新型コロナ/医療崩壊を防げ! ストレッチャー頭部被覆具、25時間で納入

医療物資管理と環境対応

COVID-19制圧に向けて、医療体制が拡充するに伴い、モノの製造・廃棄の流れにも変化が必要です。しかし、各国のロックダウン施策により、物流や建設には制限がかかった状態であり、より分散化した製造と廃棄のインフラが重要となるでしょう。例えば感染性廃棄物は許認可を持つ限られた場所の廃棄施設でしか処理できませんが、サステイナブルエネルギー開発株式会社は、現在開発を進めている車載型の亜臨界水処理装置を分散化した医療インフラへ走らせることによって、その場その場で感染性廃棄物を無害化し、さらに燃料化する技術を開発しています。他方、株式会社ファーメンステーショは、グローバルで需要が高まるエタノールを、未利用資源を活用して製造する事業に取り組んでいます。未利用資源を地域ごとに調達することでグローバル物流チェーンが寸断されたり、価格の乱高下に曝されても安定的に医療機関へエタノールを提供することが可能になるでしょう。


アンケート結果抜粋(12社)

以下にアンケートにあった回答を抜粋し、「医療インフラをアップデートするディープテック」として紹介します。カテゴリはリバネスにて付与しました。

創薬

シンクサイト株式会社

https://www.thinkcyte.com/

細胞が新型コロナウイルスに感染すると、多核化などの形状変化を起こすことが分かっています。そのため、細胞がウイルス感染後に起こすそのようなフェノタイプの変化をもとにした、高速の薬剤スクリーニングを行える可能性があります。

株式会社メタジェン

https://metagen.co.jp/

新型コロナウイルスを初め、今後出現しうる新興感染症の脅威に対応するためには、免疫力を高め、ウイルスに対する感染予防や発症における重症化を抑制することが重要です。腸内細菌叢は私たちの免疫細胞と相互作用することにより、全身の免疫系をコントロールしています。当社では、個々人によって異なる腸内環境を適切に制御する技術(腸内デザイン)の開発を行っており、当技術の活用により、免疫力向上によるウイルス感染予防効果が期待できます。

マイキャン・テクノロジーズ株式会社

https://www.micantechnologies.com/

「血球様細胞製品」の提供を通じ、マラリアやデング、その他の感染症および免疫系疾患の研究の手助けをいたします

シンクランド株式会社

https://think-lands.co.jp

現在当社は、約5年かけてホローマイクロニードルを継続的に開発を続けてきました。その適応先に関しては糖尿病や中枢神経系症例、歯科口腔外科等を考慮しています。一方でワクチン投与も大きな市場と考えていたが、今回の新型コロナウィルスの蔓延により、ピッツバーグ大学を始めとして、マイクロニードル技術が一層注目されています。

株式会社サイディン

http://www.cyding.jp/

シクロデキストリン誘導体の抗ウイルス作用の応用

シクロデキストリン誘導体を活用したワクチンアジュバント

シクロデキストリン誘導体を利用した高機能マスクの開発

株式会社RESVO

胎児期の母体のインフルエンザなどの感染症(Maternal immune activation:MIA)によって出生児が精神神経疾患を発症する確率が増大すことが知らています。今回の新型コロナウイルスの流行によって20年後、精神疾患患者が爆発的に増える可能性が危惧されます。我々は今まで一貫してMIAに由来する出生児の精神神経疾患の検査薬(法)、予防法及び治療薬(法)の研究開発に取り組んできました。

検査・追跡・隔離

株式会社木幡計器製作所

https://www.kobata.co.jp

医療機器である呼吸機能測定や、医療ガス残量モニタリングなど計測センシングとIoT分野の製品開発で現在多くの医療ニーズ、シーズのプロジェクトを有し関わっています。

AMI株式会社

https://ami.inc/

遠隔聴診による医療従事者の院内感染リスクの低減、生体音解析技術の応用による聴診の定量化に取り組みます。

Holoeyes株式会社

https://holoeyes.jp /

VRにるカンファレンスサービス。VR空間で遠隔地にいる医師が、同じ骨や血管のモデルを見ながらリアルタイムでカンファレンスができる仕組みを構築しています。

ボールウェーブ株式会社

http://www.ballwave.jp 

弊社のコア技術である高感度なボールSAWセンサによって、ウィルス検知もしくは、医療現場でのスクリーニングのための疾患起因物質の呼気分析の開発を手掛ける可能性があります。

医療物資管理と環境対応

サステイナブルエネルギー開発株式会社

https://sustainable-energy.co.jp

車載型の亜臨界水処理装置で感染性廃棄物を無害化したうえで、燃料化する技術を開発しています。

株式会社ファーメンステーション

https://www.fermenstation.jp

グローバルに需要が高まるアルコール(エタノール)を未利用資源から製造する事業に継続して取り組みます。


アンケート結果概要

調査名称 「コロナウイルス流行長期化前提のディープテックの在り方」調査

調査対象 テックプランターのエントリーチーム(2014-2019全て)

実施期間 2020年4月15日(水)〜2020年4月19日(日)

調査手法 インターネット調査(Googleフォーム)

 

Q1 コロナに関連したテクノロジー/事業構想に取り組んでいますか?

 

Q2どういうテクノロジー/事業構想ですか?

(掲載省略)

Q3 強いていうなら何テック領域ですか?(複数選択可)

アンケートに協力いただいた企業・機関

AMI株式会社/Epsilon Molecular Engineering Inc./Holoeyes株式会社/サステイナブルエネルギー開発株式会社/シンクサイト株式会社/シンクランド株式会社/ボールウェーブ株式会社/株式会社RESVO/株式会社サイディン/株式会社ファーメンステーション/株式会社メタジェン/株式会社木幡計器製作所/4Dセンサー株式会社/Agsoil株式会社/ArchiTek株式会社/Biomech(仮称)/ECO-A株式会社/FKGコーポレーション/JAMSTEC/Kisvin Science株式会社/mi-6株式会社/MicroTeX Labs 合同会社/NISSHA株式会社/NUProtein株式会社/PDエアロスペース株式会社/SEtech/Stay Home 党/TANOTECH株式会社/TDNインターナショナル株式会社/Thinkout/Tsukuba Medical Center Hospital/U-MAP/WillBooster株式会社/Zip Infrastructure株式会社/アイ'エムセップ株式会社/あっと株式会社/アデノプリベント /アンヴァール株式会社/インテリジェント・サーフェス株式会社/うみの株式会社/エシカルバンブー株式会社/カナLABO/カノンキュア株式会社/サーマルガジェット㈱/サイエンスファーム株式会社/シルクワーム関西/テラスマイル株式会社/ドローン・ジャパン/バイオチューブ株式会社/ハイラブル株式会社/ファイトケム・プロダクツ株式会社/フロッグカンパニー株式会社/マイクロバイオファクトリー株式会社/マイスターズグリット株式会社/ライトタッチテクノロジー株式会社/リアルワールドゲームス株式会社/ロボセンサー技研株式会社/炎重工株式会社/岡山理科大学工学部生命医療工学科/屋号:医学博士 和田 忠士/株式会社 スキノス/株式会社 炭化/株式会社aba/株式会社ANSeeN/株式会社AquaFusion/株式会社Atomis/株式会社AVSS/株式会社BRAIN/株式会社CuboRex/株式会社Eco-Pork/株式会社EXORPHIA/株式会社Exult/株式会社Eサーモジェンテック/株式会社FullDepth/株式会社JAPAN MOSS FACTORY/株式会社Milk Lab./株式会社RedDotDroneJapan/株式会社Rockin'Pool/株式会社Smolt/株式会社TACK&Co./株式会社Veqta/株式会社アグリライト研究所/株式会社アグロデザイン・スタジオ/株式会社アドメテック/株式会社インセプタム/株式会社ウィズレイ/株式会社ウェルナス/株式会社エイシング/株式会社おかやまバイオマス化学研究所/株式会社カワノラボ/株式会社キャッシュフローリノベーション/株式会社コードミー /株式会社サフラン・ジャパン/株式会社シアン/株式会社ソニックアーク/株式会社タマ/株式会社ナノ・キューブ・ジャパン/株式会社ノベルジェン/株式会社ハンドレッド/株式会社フォトシンス/株式会社プランテックス/株式会社ブルーオーシャン研究所/株式会社フローディア/株式会社ベーカリーイノベーション研究所/株式会社マクルウ/株式会社ミライエ/株式会社メディカルシード/株式会社リューテック/株式会社ローカルランドスケープ/株式会社人機一体/株式会社天の技/株式会社日本ナチュラルエイジングケア研究所/株式会社白獅子/株式会社理研鼎業/環境大善株式会社/関西大学/熊本大学/熊本大学/熊本大学、株式会社CAST/広島大学(※現時点ではStartupなし)/甲南大学/合同会社BeCellBar/産総研/滋賀医科大学/滋賀医科大学小児科学講座/鹿児島大学/鹿児島大学/松田商店/松田商店(株式会社フィッシム設立予定)/神戸大学/神戸大学整形外科/水産大学校名誉教授/ACMSコンソーシアム/静岡県立大学/静岡県立農林環境専門職大学/静岡大学/静岡大学・学術院・農学専攻・茶山研究室/千葉工業大学/早稲田大学/村北ロボテクス(株)/大阪教育大学/大阪市立大学/長崎大学/長浜バイオ大学大学院/鳥取大学/帝京大学/東京高専/東京大学/日本ユニシス株式会社/日本暗号資産市場株式会社/日本大学/日本大学/日本大学理工学部/富山県立大学/有限会社ヴァンテック/和歌山高専