キャリアセミナー「博士号取得者の可能性と企業での活躍の場」
~マインドを変えることで、次のキャリアが広がる~
独立行政法人 産業技術総合研究所
文部科学省委託事業「科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業」の一環として、理系博士研究者を対象としたキャリアセミナーが産業技術総合研究所主催により開催された。このセミナーでは、博士号を持つ株式会社リバネスの丸幸弘氏によるキャリア講演に続き、大手企業・ベンチャー企業で活躍する各2名の博士によるパネルディスカッションで構成され、「博士号取得者が企業で活躍するために必要なことは何か」について活発な議論が展開された。
皆、悩んでいる
「キャリアに関して悩んでいるのは、ポスドクの方だけではありません。研究者もプロ野球選手も同じ。全員が活躍できなくて当たり前なのです」。自身も博士号を取得している丸氏。修士課程在学中に、「サイエンスの面白さを伝えたい」との想いから、現在の会社を設立し、独自のキャリアを歩んでいる。
今回のセミナーの最大の特徴は、参加者も講演者もパネリストも、同年代の人たちばかりであることだ。パネリストの一人でもある江崎グリコの渡辺さんは、現在、企業のポスドクとして2年目を迎える。来年、期限が切れたらどうなるんだろう―。そんな不安が頭をよぎるという。創薬ベンチャー「リブテック」の代表取締役、中村氏も自身のキャリアを振り返り、次のように語る。「製薬会社、ポスドク、ベンチャー企業と様々なキャリアを歩んできましたが、悩みのない時期はありませんでした。もちろん、今も悩んでいます」。現在進行形で悩んでいるというパネリストたち。だが、そこに悲壮感はない。
マインドを変えると、視野が広がる
カイオムバイオサイエンスの瀬尾氏は、学生時代に得た抗体に関するアイディアを事業化し、現在に至る。「アカデミア時代との最大の違いは利益を出すことが求められる点だ」という。「お客様のニーズを汲み取るためには、コミュニケーションが欠かせません」。アカデミアと企業で働くことの違い。それは、研究対象に加えて、お客様にも視点を向ける「視点の多様化」が求められる点だ。
渡辺氏は次のように語る。「研究に加えて、ビジネスセンスが必要だと上司には言われます。食品は売って何ぼの世界。世の中に出さないと研究成果は半減してしまいます」。だが、ビジネスセンスを磨け、視野を広げろと言われても一体どうすればよいのか―。研究の世界に生きてきた研究員にとっては、こうした要求に戸惑いを持つ人も少なくないだろう。
「新しいことを聞いた時に、まず面白い!と言ってみることですよ」。新しいことに出会ったら、興味がなくとも、まず面白いと言ってみる。そして、もっとその世界を知ろうとしてみる。すると、当初は興味の無かったものでも興味が出てくることもある。その結果、自分の視野を広げることにつながるという。
一歩を踏み出す
自分には研究の道しかない―。博士がキャリアを考える際のマインドコントロール。そうしたマインドコントロールを解く際の鍵が「研究者もプロ野球選手も同じ」という言葉にある。例えば、凡庸な野球選手が、名監督になり得ることがあるように、研究の世界に生きてきた博士号取得者がその経験を生かして活躍できる場所は沢山あるのではないか。「自分の研究」、「研究職」といった枠組みに囚われることのなく、視野を広げる。そのために大切なことは、自らを縛るマインドコントロールを解き、「一歩を踏み出す」ことなのだ。現在進行形で悩んでいると語るパネリストたちを悲壮感とは無縁の存在にしているものは、こうした「一歩」の積み重ねなのかもしれない。(文・内藤大樹)