自分が選んだ道を正解にする

清水 佐紀
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 博士研究員

博士号を取得した後、海外で研究生活を送る。一見すると、絵に描いたような研究者像に向かって、突き進んできたように見える清水さん。しかし、実際には、紆余曲折を経て、自分の居場所を見つけた。今居る場所は「その時々で、betterな選択を積み重ねてきた」結果に過ぎないという。

建築の世界からバイオの世界へ

バイオの世界に飛び込んだのは22歳の時。当時、東京理科大学の建築学科に在籍していた清水さんが生物学の研究に興味を持つきっかけとなったのが、大学2年生の時に見た映画「アウトブレイク」だ。猛威をふるう未知のウイルスと闘う研究者の姿が、目から離れなかった。病気を治す研究がしたい―。在籍する建築学科を退学し、名古屋市立大学薬学部に入学した。その後進学した東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科で、念願叶ってHIVの基礎研究に従事することになるが、研究を始めて間もなく、ある疑問を持った。HIVに感染しても、エイズを発症しない人もいる。なぜだろう、そう思って研究を続けていくうちに人の体の中で作られるタンパク質が、HIVの増殖を抑えている可能性を発見した。

世の中に貢献できる研究がしたい

現在は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で、ポスドクとして研究生活を送る。細胞を用いて、細胞内にHIVが侵入する際の入口にしているタンパク質をなくす研究に従事している。実際に医療に応用するにはまだまだ遠いが、少しずつ進んでいる実感があるという。「世の中に貢献できる研究、ということが魅力的」と清水さんは語る。現在の治療法はウイルス自体に影響を与える薬を飲み、増殖を防ぐというものだが、薬に耐えるウイルスが出てきてしまうと手立てができなくなる。人の体をHIVに感染しにくくできれば、新しい治療法ができるのではないか。新たな夢が膨らんだ。

正解の道は1つではない

疾患研究という自分の場所に向けて一歩を踏み出した時点で、ストレートに進んだ人に比べると、実質4年の遅れだ。こうした時、日本では、立ちはだかるのは年齢の壁。しかし、アメリカに来てみると「現在何歳の人まで」という括りではなく「Ph.Dを取ってから何年以内の人」という括りで判断される。また、Ph.Dを持っているとビザの申請が降りやすいなど、研究者の職業そのものも確立していることを実感することも多いという。「今後も、アメリカで研究者として生きていきたい」という清水さん。
建築からバイオの世界に飛び込む中で、徐々に形にしてきた自分の想い。決して平坦な道のりではなかったはずだ。後悔しない選択を支えてきたのは、「自分にとってのbetterな選択をする」という発想。その時々で、これ以上の選択はないはずだ、というところまで考える。そうすることで後悔しない選択ができるという。正解の道は1つではない。自分が選んだ道を正解にしていけばいい。清水さんの姿からは、物事を柔軟に選択する強さとしなやかさが感じられた。(文・内藤大樹)


カリフォルニア大学ロサンゼルス校
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