全ての家の屋根に太陽電池を ~技術者たちの想い~

全ての家の屋根に太陽電池を ~技術者たちの想い~

三洋電機株式会社

次世代のクリーンエネルギーとして注目を集める太陽電池。技術者たちの見据える視線の先にあるのは、太陽電池がすべての電力を供給する未来。持続可能な社会の実現に向けてともに歩む次世代の技術者を三洋電機は求めている。

世界一の変換効率を誇る技術力

三洋電機が世界に誇るHIT (Heterojunction with Intrinsic Thin-layer)太陽電池の変換効率は、ここ5、6年で約5%向上し、研究レベルで世界最高変換効率22.3%を達成している。「たった5%と思われるかもしれませんが、0.5%でも、0.1%でもコストをかけずに変換効率上げられれば、それは大きな成果だと考えています。ですから僕ら技術者は、この0.1%のために血のにじむような努力を続けているんです。」研究開発本部アドバンストエナジー研究所で働く角村泰史さんの真剣なまなざしの奥には、研究に対する真摯な姿勢が見える。2003年に、HIT太陽電池は量産レベルで19.5%という一般向け太陽電池の中で世界一の変換効率を達成した。そこには、クリーンエネルギーの普及を目指して、新たな太陽電池の開発に着手してきた三洋電機の歴代の技術者たちの変わらぬ想いが宿る。
太陽電池は、半導体の光電効果を利用して太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する。主流は、結晶シリコンを半導体材料に用い、電子を多く持つn(negative)型シリコンと正孔を多く持つp(positive)型シリコンを約900℃の熱をかけてpn接合を形成した結晶シリコン太陽電池だ。結晶シリコン太陽電池は、製造工程での必要エネルギーが高く、また、高温処理に伴う欠陥も軽視できない。
これに対しHIT太陽電池は、アモルファスシリコンと結晶シリコンとのハイブリッド構造をとっている。最大の特徴は、n型とp型の中間の性質を持つi(intrinsic)型アモルファスシリコンで結晶シリコンを挟んだことにある。これにより、pn接合界面の相性が改善され、大幅に変換効率を高めることができたのだ。また、アモルファスシリコンは200℃という低温で形成できるため、製造工程での使用エネルギーを抑えることが可能になった。

HIT太陽電池開発の歴史

HIT太陽電池の開発を可能にしたのは、いち早くアモルファスシリコン太陽電池の開発に着手し、長い年月の間培ってきたノウハウだと角村さんは語る。
三洋電機が本格的に太陽電池の開発を始めたのは今から30年以上も昔。第1次オイルショック直後の1974年に立ち上がった日本の新エネルギー技術研究開発計画「サンシャイン計画」に着目し、1975年に世界に先駆けてアモルファスシリコン太陽電池の開発に着手していた。そして、先代社長の桑野幸徳氏が中心となって、1980年にはアモルファス太陽電池の事業化を行ったのだ。更に、1997年には、アモルファスシリコンの成膜技術を応用したHIT太陽電池の量産開始に至る。
持続可能なクリーンエネルギーの提供を事業化したいという想いからアモルファス太陽電池が生まれ、長年培ってきた成膜技術のノウハウが元となり、HIT太陽電池が生まれた。そして現在では、HITの基本構造をはじめとして、その改良に用いられた多くの技術の特許を保有し、世界シェア5位という優位性を保持している。

太陽電池が全電力を供給する未来へ

近年、化石燃料の消費が地球環境に与える弊害が注目され、特に地球温暖化に対する意識が世界的に高まっている。先進国での温室効果ガス削減量の目標を定めた京都議定書が議決され、次世代エネルギー開発への気運と太陽電池への注目が一気に高まったのは1997年。当時、多くの大学・企業の研究、開発が活性化した。
角村さんが三洋電機に入社したのは、2002年。ちょうど三洋電機において、次世代電池開発のスピードアップを目指してエナジー研究所が開所された年だ。大学院時代はアモルファス太陽電池の低コスト生産技術を実現するため、「アモルファスシリコンの高速成膜」について企業と共同研究していた。2年間の研究では、成膜速度の高速化は実現できたものの、効率面であと一歩実用化には至らなかった。就職活動の際、仕事として研究を続けたいという想いから同社への入社を決めたという。2年目からは研究所へ配属となり、三洋電機が開発したHIT太陽電池のモジュール開発に携わってきた。
「世界中で太陽電池が当たり前のごとく取り付けられるようになると良いなと思いながら研究をやっています」。太陽電池の開発に携わる多くの技術者と同じように、角村さんもまた、全ての家の屋根に太陽電池が設置される未来を描く。その目は、世界一の技術力を創り出す研究に携わることへの誇りに満ちている。
そして今、三洋電機は太陽電池の魅力や可能性を次世代へ伝えるために、理系大学院生を対象にした新たなインターンシップを開始する。未来を担う人材がここに集結する。

(注釈)
アモルファスシリコン
本来ダイヤモンド構造を有する結晶シリコンの構造がランダムになり、シリコン原子同士が無秩序に結合したもの。