「仕事を続ける」ことで見えてきたもの

「仕事を続ける」ことで見えてきたもの

東 和美
株式会社資生堂 品質保証センター学術室

女性が働きやすい企業として常に上位にランクされる資生堂。東さんは獣医学部卒業後に同社へ入社し、5年間研究職として勤務した後、出産を機に学術室へと異動した。現在の仕事は資生堂が2007年に新設した女性研究者を対象としたサイエンスグラントの企画・運営に携わる。東さんが作る新たな制度には、理系女性が仕事を続けることを応援したいという気持ちが込められている。

支援制度に支えられて

東さんは、3人の子どもを持つお母さんだ。全ての子どもの出産に際して、産休・育休を利用した。資生堂では子どもが3歳になるまで、同一社員ひとり当たり合計5年間の育児休暇が認められている。例えば、第1子のときに3年取ったならば、第2子では2年間休暇を取ることができる。また、育児時間といって、無給だが1日最大2時間の時短勤務も可能だ。こうした支援制度により、2005年以降、資生堂の研究所では出産・育児を理由に退職した人がひとりもいないという。しかしながら、今でこそ当たり前に取ることができる育児休暇も、制度導入直後には、制度を利用することへの抵抗感を感じた女性研究者もいたようだ。
「私が子どもを生んで仕事を続けていられるのは、制度を使った先輩女性社員のおかげです」。出産・育児を経験した女性社員たちが、育児との両立を図るために時間制限の中で効率の良い仕事をし、業績を上げたことで、研究所長や男性上司もその能力を自然と認め、制度への理解も深まった。作ることと同じくらい、制度を活用することは困難であり、また非常に価値のあることなのだ。

続けることで見つけた意外な適正

「充実した制度さえあれば、問題はないのか」といえばそうではない。東さんは、第1子の出産を機に研究職から学術職へと異動した時の葛藤を振り返る。「仕事を続けたくて、自宅から通勤可能な本社勤務を求めて自ら異動を願い出たものの、当時は研究職への未練がありました」。
異動先の学術室では、研究所の人たちが出したデータについて、学会の企業展示などで説明することに違和感を持ったこともあるという。「人の褌で相撲をしているような気分でした」。けれども、次第に多くの人に会う学術の仕事も次第に楽しくなってきたという。「やってみなければわからないものです。自分では気づかなかった自分の適性を発見したような気がします」。仕事を続けてきたからこそ見つけることができた。

制度を設立し、運営する立場として

現在、東さんは「資生堂女性研究者サイエンスグラント」の企画・運営を行っている。自然科学系の女性研究者に対して、1件100万円の助成金を提供するこのグラントの特徴は、試薬や備品等の研究費だけでなく、研究補助員の雇用費用にも当てることができることだ。これにより、出産・育児期間中の女性研究者も研究を継続できるように支援する。
この企画に携わり、多くの大学や公的機関で働く女性研究者に話を聞いた中で、出産・育児で研究を中断せざるを得ない状況が多々あることを知った。個人で勝負する研究者にとって、この中断が致命的になる。東さんは、研究を中断しなくても良い支援とは何かを考え続けてきた。「出産・育児を経験した女性の力」を東さんは知っているからこそ、自分が作る新たな制度では、こうした女性研究者を応援したいと考えている。