子育て現在進行形、自分のペースで進めるキャリア再開

子育て現在進行形、自分のペースで進めるキャリア再開

平成19年度文部科学省社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム
東京薬科大学学び直しのためのバイオキャリア講座

「受講時間も日数も、希望に合わせたオーダーメードの講座です」。1期生である岡本直美さんと時下祥子さんは声を揃える。東京薬科大学生命科学部の研究室に溶け込む彼女たちだが、大学の外に出た瞬間、1歳の子どもを持つ母親の顔に戻る。2008年4月から東京薬科大学にて始まった「学び直しのためのバイオキャリア講座」は、出産・育児などにより休職・退職中の方のキャリア再開や、スキルアップすることにより再就職・転職を目指す方をきめ細やかに支援する。

2年間の出産・育児を経て、自信を持ってキャリアを再開する   岡本 直美さん

大阪府立大学大学院総合科学研究科の修士課程修了と同時に岡本さんは結婚した。新卒社員としてつくば市にある食品会社で品質管理の仕事に1年間従事した後、住まいから近い職場を求めて転職。創薬ベンチャーで契約社員として働いていた時に子どもを授かる。「結婚したことでは、生活にあまり大きな変化はありませんでした。けれども、妊娠・出産は違いましたね」。
両親共働きの家庭で育った岡本さんにとって、「子どもが生まれたから仕事をやめる」という選択肢は考えたこともなかった。しかし、実際には妊娠期間中のつわりがつらく、契約更新や次の仕事を考えることができなかったという。「子どもが生まれてからはあっという間に1年半が過ぎて、やっと外の世界を考えられるようになってきたときに、この講座の開講記念シンポジウムに参加しました」。2007年11月に行われたシンポジウムをきっかけに講座への参加を決めた岡本さんは、転勤が多いというご主人に合わせて様々な職場で働くことを想定して、これまでの経験を活かせるテクニシャンとしてキャリアを再開したいと考えている。「出産・育児により約2年間現場を離れたため、実験に関する知識、技術ともに不安を感じています。バイオキャリア講座ではこの不安を解消して自信をつけたいと思います」。現在、岡本さんは週2日、10時から15時までを研究室で過ごし、指導教授と相談した上で、これまで経験のない実験スキルを中心に実習形式で集中的に学んでいる。
「子どもと少し離れたこの講座がリフレッシュの時間になっています。細胞を観察する実験は大好きなのでとても楽しい」。外の世界に踏み出したことが、子どもとの関係において良い循環になっているという。7月以降、週2・3日のインターンシップを行う予定の岡本さんに少しずつ自信が芽生え始めた。

子育てと仕事、両立のためのシミュレーション期間   時下 祥子さん

「我が子のそばにずっと一緒にいたい。でも仕事もしたい。だから、今はずっと続けたいと思える仕事を落ち着いて探す時間なのだと思います」。
時下さんは新潟大学大学院の博士課程在籍中に日本学術振興会特別研究員として採択され、研究一色の学生生活を送った。卒業後2年間のポスドク期間中に結婚し、子どもが欲しいと考えて定時で帰宅可能な職場へと移った。「子どもが欲しいから仕事のウエイトを落とす」という選択を自分がするとは考えてもみなかったと時下さんはいう。しかし、子どもが生まれると、育児は大変だが、楽しくて、働きたいと思うことさえなかった。ところが1年が過ぎ、体調も回復したころから就職を意識するようになった。「子どもがどんどん成長していく。この子が大きくなっていく時に私はどうなっているのだろう。そう考えた時に改めて仕事をやろう、具体的に考えようと思いました」。
時下さんがバイオキャリア講座の受講を決めたのは、インターンシップやキャリアコンサルティングがプログラムの中に入っていたからだ。「当初の希望は研究を続けることでしたが、子どもを産んで最優先事項が『仕事と子育てを両立できること』に変わりました。仕事は変わるかもしれないけれど、子育てがプラスになることもあると思います」。企業に勤めた経験のない時下さんにとって、様々な会社や職種を知るコンサルタントに相談できることはとても心強いという。現在、時下さんは週5日を東京薬科大学環境分子生物学教室で過ごし、学生との共同研究テーマにも関わり始めた。「子どもを保育園に預けたり、夫に家事の協力をしてもらう良い機会になっています。仕事か子育てか、とストイックにならず自分のバランスで両立できる形を探していきます」。バイオキャリア講座の半年間は、時下さん家族にとって余裕を持ちながら次の生活をシミュレーションできる機会となっている。