高度好熱菌のDNA修復機構の解析

高度好熱菌のDNA修復機構の解析

太田 敏博 准教授
東京薬科大学生命科学部 環境分子生物学研究室

生物が持つ多様な機能を遺伝子レベルで解析し、それらの機能の発現に環境変化がどのような影響を与えているのかを明らかにしようと、ミジンコなどの甲殻類や高熱菌などの微生物を対象として、東京薬科大学分子生物学研究室は研究に取り組む。その中で、太田准教授は生育温度70~75℃という高度好熱菌Thermus thermophilusを用いて突然変異メカニズムとその修復機構の解析を進める。

高度好熱菌は、その過酷な生育環境を生き抜くため、タンパク質や細胞膜をはじめとした構成成分に特徴的な耐熱性を有する。この耐熱性に関する研究が盛んに行われる中、太田准教授は、高度好熱菌のDNA修復機能に注目している。一般的な中温菌が生息する30℃付近に比べ、高度好熱菌が生育する70℃前後は化学反応速度が数百倍に上がる。そのため、高頻度で生じる脱アミノ、脱塩基、メチル化などの化学反応によるDNA損傷が起こる。この損傷を効率よく修復し、DNA複製が正確に行われるための防御システムが高度好熱菌には存在していると考えられる。特定のDNA修復遺伝子を破壊した変異株を単離し変異原に対する感受性を調べたり、自然突然変異頻度を解析してきた研究の結果、高度好熱菌に特有の長鎖ポリアミンがDNA損傷の生成を防御している可能性が明らかになってきた。今後は詳細な解析を進めるとともに、さらに高温域で生育する他の超好熱菌の解析にも取り組む予定だ。


突然変異メカニズムやその防御機構の解析を進める太田准教授らの研究では、多数の変異株の遺伝子解析を迅速に行うことが求められる。実験のスタートラインともいえる菌体からのDNA抽出に核酸・タンパク質自動精製システムMaxwell®16 Instrument(プロメガ株式会社)が活躍している。

専用の試薬をプレパックしたカートリッジに、コロニー1個分の高度好熱菌Thermus thermophilusを直接加えた後、Maxwell®16 InstrumentにセットするだけでDNAの自動抽出が可能だ。サンプルの前処理や破砕操作、また抽出物の精製が不要なため、全行程が60分以内*に完了する。環境分子生物学研究室では、動物プランクトンの環境応答機構や甲殻類の形態多様性の分子機構の解析も行う。これらの研究で用いるミジンコなど甲殻類でも特別な処理を必要とせず、数個の生体をそのままカートリッジにサンプルとして加えることで核酸の抽出が可能だ。汎用性が広く、簡便な操作を特徴とするMaxwell®16 Instrumentが研究の一端を担う。

*サンプルの種類にもよりますが、DNA抽出操作自体は30分以内で完了します。
Maxwell® 16Instrumentに関する詳細情報はプロメガ株式会社ホームページをご覧ください。