博士を持っているなら 研究者として勝負したい ~博士が集まる、リバネスの研究開発事業部を紐解いてみる~

博士を持っているなら 研究者として勝負したい ~博士が集まる、リバネスの研究開発事業部を紐解いてみる~

株式会社リバネス 代表取締役COO 高橋 修一郎

2006年、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻修了。修士課程在学時の2002年からリバネスの立ち上げに関わる。博士号取得後、株式会社リバネスの専務取締役に就任し、2010年6月より代表取締役COOに就任。一方で東京大学大学院農学生命科学研究科助教、法政大学生命科学部兼任講師を務める。

株式会社リバネス 研究開発事業部 部長 高橋 宏之

2003年奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科にて修士を修了。2009年1月横浜市立大学大学院総合理学研究科生体超分子システム科学専攻にて博士号取得(理学)。2009年7月より株式会社リバネスに所属。趣味は料理、読書、釣り、音楽鑑賞(山中千尋、マーカス・ミラーをよく聴く)。人生最初の海外旅行は仕事で行ったアフリカのレソト王国。レソト大学で日本人初の講義をした。

株式会社リバネスには設立初期から研究支援事業があり、研究開発事業部になった今でもバイオ分野での受託解析等を行っている。技術開発に特化していない企業でありながら自らのラボを持ち、新しい研究の種を日々生み出している珍しい企業だ。現在の研究開発事業部の部員は全て博士号取得者で構成されている。筆頭に立つのが、研究開発事業部の部長であり、リバネス生命先端科学技術研究所の研究所長である高橋宏之さん。代表の高橋修一郎さんがリバネスの「研究開発事業部」で活躍できる博士像を聞いた。

あいまいな現象も物質から迫れば何かわかると思っていた

高橋 修一郎(修): たかひー(宏之さんのこと)は博士課程まで修了していてずっと研究畑を歩んできた。まさに研究者肌な人だけど、なぜベンチャーに、しかも当時は科学教育が前面にでていた会社に入ったの?

高橋 宏之(宏): 研究にはずっとコミットしたいと考えていたのですが、周りを見渡してみると、「研究やりたいから博士課程に行きました」という熱のある人がいる一方で、「何となく来た」ように見える人もいて、違和感があったんです。「面白いから来た」と胸を張って研究できる人を増す活動がしたい。そのために基礎研究の面白さを自分の力で伝えたい、と思いました。それがリバネスでインターンシップを始めたきっかけです。僕はいわゆるオーバードクターで博士号を取ったのですが、30歳までにポスドク職につけなかったらこの世界で自分がラボを持つまで進むのは難しいだろうと考えていたこともあったので、卒業する頃には別のフィールドに挑戦してみたいという気持ちでいましたね。

修: ずっと研究者志向だったの?

宏: 学部のときから博士課程まで行こうと思っていましたよ。1つのことをとことんまで知りたいという気持ちが強くありました。でも最初は生物に興味があったわけじゃないんです。反応がきちんと理解することができて、新しいものを作り出せる有機化学に興味があって、化学科に進学しました。変化があったのは学部3年生のとき。チャールズ・ダーウィンやリチャード・ドーキンスの本を読んで、ここに法則のようなものを見つけられたら面白いだろうと思いました。生命現象を化学反応で説明できるところもあるということもわかりましたし。その中でも遺伝暗号を書き出す転写というプロセスは本質的なところで、このメカニズムを自分で明らかにすることができたら面白そうだと、生命科学の研究に惹かれるようになっていきました。

修: 修士課程も博士課程も大学を変えているよね。

宏: 修士時代はメカニズムを知るのにタンパク質の構造から考えるのがいいだろうと考えて、転写因子のX 線結晶構造解析の研究室に所属していました。ただ、研究をする中で、構造だけでなく、機能についても自分の手で調べるのがスタイルに合っているのかなと感じるようになりました。たまたま博士時代のボスが出張講義に来ていたときに出会って、研究手法や研究内容が合っているなと感じてその研究室に移りました。僕の中では生物の中の転写因子という物質について追いかけているので一貫しているんですよ。

いろんな研究のブレイクスルーになるものをつくりたい

修: たかひーは社内でも一番研究に熱くて、経験値も高いし、知識もある。そういう人がビジネスの世界に行くとどうなるのかな?

宏: 自分が博士課程で培った研究の経験を活かせていると思いますね。これは正直意外でした。事業としては受託解析サービスがよく知られていますが、ただ研究者のルーチンを代行する、というだけでなく、ニーズを聞いてこちらの方がいいですよと提案もします。実験系の設定から結果の解析まで、一気通貫でできる。研究経験を積んだ人でないとできないサービスです。はじめは受託なんて来た仕事を回すだけと思っていたのですが、今は研究者の話を聞きながらソリューションを提供するイメージがついてきました。多くの人と接していると大学にいたときにはリーチできなかったような情報が入ってきます。その中で新しいアイデアや研究の広がりが見えてきますね。よりニーズに沿った研究設計ができることが面白いです。

修: 受託以外の事業もずいぶんと広がってきたよね。

宏: 受託解析を充実させて、ちゃんとラボも立ち上げたことで、自分たちがイノベーションを起こすためのインフラが徐々に整ってきたように思います。ラボではこれまで機能性微生物の解析をしたり、理研の研究者と組んでうと思っていましたよ。1つのことをとことんまで知りたいという気持ちが強くありました。でも最初は生物に興味があったわけじゃないんです。反応がきちんと理解することができて、新しいものを作り出せる有機化学に興味があって、化学科に進学しました。変化があったのは学部3年生のとき。チャールズ・ダーウィンやリチャード・ドーキンスの本を読んで、ここに法則のようなものを見つけられたら面白いだろうと思いました。生命現象を化学反応で説明できるところもあるということもわかりましたし。その中でも遺伝暗号を書き出す転写というプロセスは本質的なところで、このメカニズムを自分で明らかにすることができたら面白そうだと、生命科学の研究に惹かれるようになっていきました。

修: 修士課程も博士課程も大学を変えているよね。

宏: 修士時代はメカニズムを知るのにタンパク質の構造から考えるのがいいだろうと考えて、転写因子のX 線結晶構造解析の研究室に所属していました。ただ、研究をする中で、構造だけでなく、機能についても自分の手で調べるのがスタイルに合っているのかなと感じるようになりました。たまたま博士時代のボスが出張講義に来ていたときに出会って、研究手法や研究内容が合っているなと感じてその研究室に移りました。僕の中では生物の中の転写因子という物質について追いかけているので一貫しているんですよ。蛍光タンパク質を組換える教育用キット作ったり、研究者の技術や成果から新しいモノを生み出す事業を行ってきました。

修: ラボを立ち上げて、1つサービスが軌道に乗り始めてきた。まだまだスタート段階だけど、今後はどんなことをしていきたいのかな?

宏: 社内でラボを使っているだけですが、将来的にはもっと大学や企業の人にも使ってもらうオープンラボにしたいです。たとえば、大学でラボを立ち上げるまではできない人に自分の研究をしてもらうとか、海外から日本に帰ってきて次のポストでの研究が始まるまでに自分の実験を進めてみるとか。以前海外で見たように、いろんな人が出入りして、新陳代謝が活発になれば、もっと新しいアイデアがいろいろと生まれると思います。その中で自分は今の研究のブレイクスルーになるものをつくりたいですね。そのためにもっといろんな人を巻き込みたいです。

研究力はビジネスに通じる

修: 研究開発に必要な人材ってどんな人だと思っているの?

宏: 僕の中では研究力が大事。研究力とは実験ができるだけではなく、問題が発生したときにその問題を分解して見つけられるとか、取扱説明書だけ渡されても自分で考えて横展開できるとか、1つのことから発想を膨らませることができるとか。これはビジネスにも通じると思うんです。研究力がある人は仕事力もあるって、みんなでよく言ってますよね。

修: 研究をバリバリやってきた人がビジネスの世界にもっと出てきて活躍してほしいよね。

宏: はい。ただし、僕は博士の人にはあくまでも研究で勝負できるところは持っていてほしいと思っています。博士号を持つなら、専門性を持っていて、ちゃんと自分の研究について説明できること。自分の専門に責任をもつことだと思うんですね。そういう人は絶対ビジネスの世界でも強いと思うんです。専門性を自分の強みにしていく覚悟を持って、ビジネスでも勝負してほしいですね。

修: うちのラボはほかの企業のようにテーマが縛られているわけではないから、自分でテーマを決めて自分でお金をとってきて、自由に新しいことを生み出すチャレンジができるよね。

宏: パーマネントで研究職に就こうと思えば、研究室の経営的な視点も持たなくてはいけない。リバネスのラボは教授がいない研究室のようなものだから、若いうちから何でも自分で考えて動かないと成り立たないのです。研究者としては最速で成長できる環境だと思います。幅広く興味を持ちながら、自分の強みを1本持っている。そんな人が活躍できる環境なので、研究が大好きな人はチャレンジしてほしいですね。
(文 環野真理子)