未開のフロンティアで歴史に残る革命を

未開のフロンティアで歴史に残る革命を

株式会社典雅 代表取締役 松本 光一 さん

自動車整備の専門学校を卒業後、スーパーカーやクラシックカーの整備に携わる。脱サラ後、2 年間の自主製作期間を経て、2005 年に有限会社(当時)典雅を設立。現在に至る。

「ぼくは、発明オタクなんです」と、照れながら明かしてくれたのは株式会社典雅の松本光一さん。昔から、街中で不便だと思うことを見つけては、それを解決するのが好きだったという。10年前、アダルトショップに並べられた数々の男性向けアダルトグッズを見て、卑猥なパッケージとあいまいな説明のみで、普段私たちが携帯や家電を買うときの指標になる「機能性」がないことに気がついた。そこに新たなエンターテイメントを創出するフロンティアがあった。

機能性へのこだわり

アダルトグッズと科学技術は一見結びつかないような気もするが、TENGAの開発では、徹底した機能性へのこだわりを持つため、素材や設計が非常に重要となる。例えば、TENGAシリーズの代表格である『ディープスロート・カップ』の開発にあたっては、誰が使ってもキュッとしまる感触を出すために、外側のプラスチックケースにくびれ部分をつくり、前面に押し出された空気を逃がすエアホールを設けた。穴を指で押さえると任意の減圧状態を保てるので、使う人が自由に変化を楽しめるのだ。こうして開発されたマスターベーション補助器具「TENGAシリーズ」は、5万個売れれば御の字というアダルトグッズ業界の中で、発売から1年で100万個を売り上げ、現在では世界40か国に年間500万個以上出荷されているヒット商品となった。

性を誰もが楽しめるものに

商品の開発以外にも、性に関する正しい知識の普及や、医療現場への商品の提供など社会貢献活動も多数行っている。実際に、射精障害や前立腺全摘出者のリハビリのために病院で使用され、TENGAを使用した研究も日本性機能学会で発表されたり、学術論文としてまとめられてもいる。これら全ての活動は企業理念でもある「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」ためにある。ユーザー目線に立った機能の実現にこだわるのも、一般的なアダルトグッズのように卑猥な想像を掻き立てるためのものではなく、基本欲求をスマートに満たすための製品、という目指すべき位置づけの違いがあるためだ。食への欲求が高じてグルメという文化が生まれ、世に快眠グッズが溢れるように、ヒトが持つ最後の基本欲求に素直に向かい合い、新たな文化を作ろうというのが、典雅の考えなのだ。

モノづくり企業と研究者の議論が革命を起こす

「今ある商品が100点と思ってないんです。常に新しい発想を取り入れたい。なんで思いつかなかったんだ!と悔しくなるようなアイデアが欲しい」と、言う松本さん。新たな視点を科学技術の知見に求め、今年9月、リバネス研究費TENGA賞の募集をスタートした。これまでは自分たちの経験やノウハウを元により良い商品の仮説を立て、検証、改良する帰納的開発スタイルをとってきた。これからは、自分たちが持っていない科学的な知見も加えて性という未開拓なフロンティアを進みたいと考えている。学問という体系化された知から仮説を導く「演繹的な開発」を実現したいという。たとえば、宇宙や極地で使えるTENGA開発のためのマテリアルの研究、快楽を学問的に理解するための脳科学の研究、性感染症の研究など、出会いたい研究者は次から次へと湧いてくる。「研究者の専門経験はすばらしい。われわれはモノづくりの専門家。お互いの専門を持ち寄って、さらに議論したいね」。「性」のエンターテイメントはここから始まる。さあ未開のフロンティアへ、新しいムーブメントを研究現場から起こそう。
(文 武田隆太)