3D-GeneⓇが 未開の地を切り拓く

3D-GeneⓇが 未開の地を切り拓く

北里大学 理学部 生物科学科 助教 井上 浄 さん

BioGARAGE*03で東レ株式会社(東レ)製3D-GeneⓇを用いて炎症反応機構の解明を目指した研究について、北里大学の井上助教に話を聞いた。独自の技術で飛躍的に高まった3D-GeneⓇの検出感度に初めて触れ、驚きを隠せない姿が印象的であった。今回は、解析データをもとに今後の研究に思いを巡らせていただいた。

炎症反応機構の解明を目指して

井上助教らは炎症反応に重要な役割を果たすタンパク質として、Gタンパク質の1種であるRap1に注目している。Rap1を不活性化するGTPase活性化因子(GAP)の1つであるSPA–1をノックアウトしたマウス(SPA–1KOマウス) では、肝臓や皮膚に膿の塊(膿瘍)が形成される。「これは細菌などの感染に対して過剰な炎症反応が起きていると考えられます」。SPA–1KOマウスは炎症反応にブレーキが効かず、炎症が起こる際に産生されるサイトカインやケモカイン等が過剰に産生され続けている可能性が示唆された。そこで、炎症反応に深く関わるマクロファージに注目し、野生型とSPA–1KOマウスのマクロファージに同じ刺激を与え、両者間の遺伝子発現パターンの違いを3D-Gene®を使って検証した。

経験豊富な研究員が強力にバックアップする

3D-Gene®の強みは感度の高さだけではない。もう1つの強みは、精度の高い解析データの解釈を助ける東レの研究員の存在だ。マイクロアレイなどの網羅的解析データは、解釈次第で宝の山にもゴミの山にもなりうる。その解釈を助けるのは経験だけであり、東レのマイクロアレイデータ解析経験を積んだ研究員が研究者を強力にバックアップする。

正確な解釈が研究を前に押し進める

クラスター解析およびパスウェイ解析の結果から、野生型に比べSPA–1KOマウスのマクロファージでは炎症系サイトカイン遺伝子の発現が高い傾向が認められた。さらにSPA–1KOマウスの樹状細胞(DC)とマクロファージも比較した。
井上助教らはDCではSPA–1以外にもRap1のGAPとして働く分子が存在すること、マクロファージではSPA–1が主なGAPとして働いていることを発見している。つまり、理論上DCではSPA–1が機能しなくても活性化されたRap1は不活化され、マクロファージではSPA–1が機能しなければRap1が不活化されることはない。
結果はどうだったか。SPA–1KOマウスのDCでは炎症系サイトカインの多くは変化がなく、マクロファージ特異的に炎症系サイトカインの発現が強まっているという傾向が見られたのだ。「3D-Gene®の感度とデータ解釈に関する助言から、SPA–1、さらにRap1の炎症反応への影響に強い確信を持てた」。正確な解釈が、研究を前に押し進める。炎症反応機構の解明に向け、井上助教の研究はさらに前進した。