身近な支援が、グローバルな活躍を導く 上智大学「グローバル社会に対応する女性研究者支援」プロジェクト

身近な支援が、グローバルな活躍を導く 上智大学「グローバル社会に対応する女性研究者支援」プロジェクト

上智大学理工学部長 教授 早下 隆士 さん

上智大学理工学部物質生命工学科 准教授 竹岡 裕子 さん

上智大学理工学部情報理工学科 准教授 矢入 郁子 さん

理工学部の女性研究者たちがグローバルな社会でさらに飛躍することを目指し、上智大学は様々な女性研究者支援に取り組んでいる。出産、育児、研究、教育を並行している現役女性研究者2人を交え、彼女たちの実際の経験を紹介してもらいながら、身近な環境を整えることでグローバルな活躍の土台を作る女性研究者支援の「上智モデル」について学んだ。

女性研究者支援の「上智モデル」の形成に向けて

上智大学には留学生・帰国子女も多く在籍し、学部生の男女比はほぼ同じくらいである。これまでに海外で活躍する人材を輩出し、多くの女性の進出を後押ししてきた。だが、教員の男女比を見てみると、全学部495名の教員の中で女性教員は22%の107名。理工学部に注目すると、女性比率は5%。その理工学部の女性研究者を主な対象として、平成21年度から3年間に渡り「グローバル社会に対応する女性研究者支援」プロジェクトが文部科学省科学技術振興調整費、女性研究者支援モデル育成の採択を受けた。「理工系の女性研究者に、ぜひ国際的な舞台で活躍してほしい。そのために、海外への研究結果の発信を促進し、研究者同士の国際パートナーシップを構築します。また教員、スタッフの意識改革をはじめ、彼女たちが安心して働いていける制度の充実をはかり、さらなる活躍を後押しします」。代表推進者を務める理工学部長の早下隆士さんは、プロジェクトの概要をこう語る。グローバルな活躍を促進していく様々な取り組みと、毎日安心して働けるように身近な環境を整える「ローカル」な支援の2つの柱が特徴だ。

子育ても、研究もー女性研究者の毎日のニーズに応える

実際に上智大学の女性研究者たちはどんな不安、困難を抱えているのであろうか。現在、上智大学理工学部情報理工学科で准教授を努める矢入郁子さんは、上智大学に移る前、公的研究機関で研究に携わっていた。「育児休暇や時間短縮制度は、私が属していた機関では子どもが3歳までと定められていたのですが、大学では一般的に育児休暇制度は1歳までというのを知って驚きました」。矢入さんは、2名の幼児を抱える生活の中で、予想外のトラブルが起こりがちな子育てと研究室の運営の両立に四苦八苦してきた。昨年から上智大学の女性研究者支援プロジェクトの出産・育児期教員のための研究員(PD、RA)雇用制度を活用し、週40時間、ポスドクに学生指導の業務をサポートしてもらっている。「ある朝、保育園に向かう最中、急に子どもの具合が悪くなったのです。その対応のため授業開始時刻に間に合いそうになく、アシスタントに連絡をして、私が到着するまで授業を代行してもらいました」。幼い子どもがいる以上、こういった不測の状況のサポートがあるのはとても心強い。この他にも、打ち合わせの時間を週末や夜遅くなどを避けて設定するようにしたり、学内の託児所の積極的活用を促す取り組みなどがある。また、理工学部物質生命理工学科准教授の竹岡裕子さんは、理工学部で十数年ぶりに在職中に出産を経験した研究者だ。上智大学では在職中に出産した女性研究者の前例が少なかったので、まずどういう育休や時短制度があるのかを、人事部と相談するところからはじめた。上智大学の制度を学んでいく中で、過去の女性研究者の方々はほとんど支援制度を利用していなかったことがわかった。女性研究者にとって役に立つ情報が、そもそも当人に行き渡っていなかったのだ。プロジェクトでは、情報不足の問題を解消するために、女性研究者と女子学生が休憩や仮眠、育児に使えるコモンルームを設置した。また、情報交換と同時に、どういう制度や改革が求められているのか現場の声を聞き出すため、女性研究者を集めて定期的なワークショップを開いている。このような機会を設けることで、理工学部内での教員同士のふれあいや、学生と教員が気軽に話ができる時間が増えた。その結果、異分野の研究の話を楽しみつつ、女子トークを交わしながら、ストレス発散ができるようなサポートの輪ができあがってきた。女性研究者だけではなく、学部生にとってもこのような取り組みは効果を発揮している。「理工系の女子学生のみなさんも、気軽に集まって他の学生たちと交流したり、普段ゆっくり話ができない先生方にいろいろ質問できる機会が増えて、よい刺激になると聞きました」。プロジェクトコーディネータの近藤佳里さんは、学生の反響をこう話す。

女性研究者同士のネットワークがグローバルな活躍を促す

身近な環境を整える一方で、上智女性研究者とその卵たちが世界で活躍できるような支援も行われている。英語添削サービスでは、論文の添削や各研究者のホームページの英語化を促す。グローバルに活躍するためには英語での積極的情報発信は欠かせないからだ。また、これから走り出していくグローバル・メンター制度にも期待が高まる。上智大学のグローバル・メンター制度では、これまでに蓄積した海外大学とのネットワークを利用して、海外で活躍している研究者にメンターとなってもらう。こうやってキャリアについて相談できるネットワークを作り、また国境を越えた共同研究の機会を作りあげていくのが狙いだ。より身近な立場の学部4年生もしくは大学院生が上智大学生のメンターとなる国内メンター制度も始まる。竹岡さんは自分の過去の経験からこのようなメンター制度の効果に期待を寄せている。竹岡さんは学生の頃、財団法人国際科学技術財団を通して、ストックホルムでのノーベル賞関連行事に参加したことがある。世界30か国から集まってきた研究者の卵たちと交流しながら、一方でトップクラスの科学者たちの話を聞くこともできて、とても良い刺激になったという。学生はメンターたちとの関わり合いから、自分自身の新たな可能性に気づき、新しい視点を手に入れることができるのだ。
上智大学の女性研究者支援は、毎日の職場環境を整え、意識改革を推し進めることで、女性研究者たちがグローバルな舞台でもっと活躍できる土壌を整えている。身近な環境改善とグローバルな活躍への取り組み、その2つの連携を大切にしていることが、まさに「上智モデル」女性研究者支援の良さではないだろうか。