みんながいつまでも 夢を語れる国って 素敵じゃないですか

みんながいつまでも 夢を語れる国って 素敵じゃないですか

對崎 真楠 さん
文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課

博士号を取得後、文部科学省に入省し宇宙開発事業部で日本の宇宙事業を支えている對崎さん。その心は、誰もが自分の好きなことに素直に突き進める国をつくるためにある。行政という「国」の組織から1 人でも多くの「個」の幸せを実現させるため、政策に人の温かい血を通わす仕事がここにあった。

教育を政策で担保する

「タンパク質のミクロな動きで生き物というマクロな存在をダイナミックに変化させられる生命の仕組みに興味を持ったんです」という對崎さんは、大学ではカビが伸びるメカニズムを研究していた。たった1 つのタンパク質の発現を制御するだけで、先端が伸びる現象を止める、という研究を深めるため、博士課程に進学。転機はオープンキャンパスを手伝ったときに訪れた。研究室を訪問した中高生が自分と同じように、それぞれ十人十色の興味を持っていることに気づいた。しかし、同時に夢を語っているだけでは生きてはいけないことを既に知っている彼らに対して、やるせなさがよぎった。今の日本では大人になるまでに描いていた夢が徐々に現実的な選択を受けざるを得ない。「誰もが好きなことを極められる社会をつくるには教育を変えなくては」。この想いが生まれたとき、「国の大きなビジョンを決める行政の仕事なら、子どもたちの可能性と教育を政策で担保できると思った」という。對崎さんは博士号取得後、1 年のポスドク経験を経て文科省に入省した。その年、文科省に入省した博士はおよそ50 人中3 人だった。

見えない価値を見えるように伝える

現在、宇宙開発利用課で働く對崎さんは、国の予算をJAXA などの研究機関へ配分する仕事をしている。各プロジェクトに必要な額を決め、適切な配分方法を模索する。その過程で大事な仕事が、研究の意義を理解し、伝えることだ。たとえば、年々予算が削られているはやぶさ2 の打ち上げ計画は、今年も削られてしまうと打ち上げの危機となる。巨額の税金を使ってまでなぜ打ち上げなければいけないのか。基礎研究の価値と宇宙のロマンを誰もが納得するよう理論的に説明しなければならない。政治家や他の省庁の担当者に説明する資料をつくるのが對崎さんの仕事だ。はやぶさなら、使われているイオンエンジンが世界シェアの半分近くを獲得する日本の技術の集大成であり、打ち上げは技術の継承にも
つながる。「泥臭い仕事です」と對崎さんが言うように、研究現場と政治家、行政の間を科学の意味を繰り返し訴えながら走り回る。研究生活を経験した對崎さんだからこそ、地道な努力の重要性をひしひしと感じているはずだ。

人の夢が僕の夢です

政策をつくり、予算を決め、実行する。その中でいつも日本の最大多数の幸せを考え、バランスをとっていくのが官僚の役割だ、と對崎さんは言う。大臣の答弁や政治家の発言の裏に隠れて、その活躍は私たちの目に入りにくい。しかし、政策1 つとっても、明確に書きすぎると角が立つ、曖昧にすると現場が混乱する。文章の書き方1 つで日本中に影響が出てしまう、責任のある仕事だ。さらに、行政が描いた政策を現場がスムーズに実行できるよう、行政と現場の間にあるズレも解消していかなくてはならない。「人が夢を描けることが僕の夢。子どもたちには年齢とか、出身とか、理系、文系とか、そういうことを決して可能性の足かせにしないでほしいです」。みんなが夢をいつまでも語り続けられる世界を思い描く對崎さん。その深い懐に詰まった幸せを垣間見た。(文・上野 裕子)