狙うは「初めて」の技術

狙うは「初めて」の技術

株式会社仲田製作所  代表取締役 仲田裕一さん

特殊な素材や形状も、難しくて誰も受けたくないような加工も、 ここに頼めば解決してしまう。初期の携帯電話の中に使用されて いる振動部分のコアレスモーターのケース、液晶テレビ用バック ライトの電極など、新製品の中にはいつもこの会社の部品があっ た。時代の最先端を走りながら、「初めて」を武器に常に新しい ことにチャレンジすることにこだわり続ける人が墨田にいる。

 

「初めて」にこだわる会社

一枚の金属板に圧力を加えて、筒状に 加工する「絞り加工」で、ものづくりを 営む仲田製作所の二代目代表、仲田裕一 さんの信条は「初めて」にこだわること だ。約 30 年前に、今では看板製品のコ アレスモーターのケースを作る相談がき た。このケースは 1 つの製品の中で場所 によって異なる厚さに加工する必要があ り、通常は金属を削って厚さを変える。 しかし、同社は2.0mm ~ 0.4mmの厚 さの違いがある絞りケースを、絞り加工 で精度0.01mm以内を保ちながら作る ことに業界で初めて成功した。ウォーク マンRに導入されたのを機に、ポケッ トベル、携帯電話、スマートフォン、高 級一眼レフカメラ等に次々と導入され、 振動モーターでは世界全体のシェアが 67%を超えたこともある。「今は誰でも できる仕事は日本にないんです。でも、 誰もできない仕事だったらたくさん眠っ ています」。仲田さんは「初めて」にこ だわる理由をこう話す。他には真似でき ない技術を獲得することで、町工場が価 格競争ではない付加価値を提供し続ける ことができると考えている。

誰もできない仕事を取りに行く

「初めて」を探すのには少しコツがい る。何を作るべきか、アイデアは待って いて降ってくるわけではない。自ら情報 を探しに行くことだ。仲田さんの情報源 は顧客。毎週20 ~ 40人ほどの顧客と 実際に会うので、困っていることや話の中で出てくる技術の話で、時代が求めて いるものを読むことができるという。「違 う会社から同じ部品の話が出る。でも最 終的に何を作りたいのかは開発初期だと なかなか言ってくれない。そこから次に 作るべきものを考えるのです」。この情 報の早さがいち早く製品を開発できる秘 訣だ。同社の工場は顧客を迎えるのにふ さわしく、きれいに整えられ、誰もがく つろげる空間になっている。

失敗しても失うものはない

「その開発がパアになるかもしれない けど、失うものはないからね」と仲田さ んは新製品に挑戦する気持ちを笑いなが らこう表現する。もともと、町工場を継 ぐつもりはなかったが、先代のもとで「初 めて」に挑戦し続けているうちに、その 面白さに目覚めた。最初の製品を作ると きは、既存の仕事が止まらないよう、社 員の邪魔をせず社長自らが行う。諦めな い粘り強さと「失敗しても失うものがな い」という気持ちが実現させているのだ。 「初めて」に挑戦するのは研究者も同じ。 壁に当たったら、彼の言葉を思い出して みてはどうだろう。新たな価値を生み出 すための「粘り強さ」は、どの分野にお いてもイノベーションを起こすために必 要な要素なのかもしれない。

(文・齊藤 想聖)

|仲田 裕一 さん プロフィール|
1967 年、東京都生まれ。東海大学卒業後 1990 年、家業である株式会社仲田製作 所入社に入社。2007 年、同社代表取締役社長に就任。他、LON レアマテリアル 株式会社の代表取締役社長も務める。

株式会社仲田製作所