SBN187_粘菌で脂肪と寿命の関係が明らかに

SBN187_粘菌で脂肪と寿命の関係が明らかに

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夜な夜なビール片手におつまみを食べるお父さんに向かって、冗談交じりに「メタボになるよ~」なんて光景は実はあまり笑いごとではありません。「肥満」は生活習慣病にもつながりますが、どの程度の肥満がどのように寿命に影響するのかなど明確には理解されていません。

 

今回、単純な単細胞生物が、肥満のもととなる脂肪の蓄積と寿命の関係を示してくれました。これまでの研究で、RabGAPという遺伝子の働き方によって、細胞中の脂肪の蓄積が変わることが分かっていました。面白いことに、進化の進んだ高等生物であるヒトだけでなく、アメーバ状の原始的な生物である細胞性粘菌も同様の遺伝子をもち、その働きにより脂肪の蓄積をコントロールしています。今回、研究によって、この遺伝子により制御される脂肪の蓄積の変化が、粘菌の寿命に影響を与えることが分かりました。細胞性粘菌は、栄養が十分な環境下で胞子から発芽し、その一生が始まります。初めは単細胞として生活をし、分裂を繰り返しながら増殖しますが、飢餓状態になると粘菌同士が集合します。そして、次世代の個体の元となる胞子とそれを支える柄からなる子実体を作り、多細胞の形で休眠状態となります。昆虫などに運ばれ場所を移した胞子は、環境が良くなると、そこで発芽し新たな一生が始まるのです。

 

今回の実験では、粘菌のRabGAP遺伝子を破壊し、脂肪を細胞内に溜めにくくしました。その結果、細胞の増殖が早くなり、さらに飢餓状態において子実体の形成が早くなりました。これは粘菌の一生が短くなったことを示しています。逆にこの遺伝子を過剰に働かせると、脂肪が溜まりやすくなり、細胞増殖も子実体の形成も遅くなりました。これは寿命が長くなったことを示しています。一見、脂肪があることが長生きの秘訣になったようにも見える結果ですが、粘菌のような原始的な生き物では寿命を短くして世代交代を早くすることが、不利ではなく、新しい環境に適した個体を作りやすいという点で種全体として有利に働くとも考えられます。今後は詳しいメカニズムについて解明が進むことでしょう。同じ遺伝子をもつ私たちヒトの脂肪消費を促進するしくみの解明や薬剤の開発につながる可能性もあります。この冬休み、粘菌をじっくり観察してみるのも面白いかもしれませんね。

記者コメント:肥満をもたらす過食そのものが寿命に影響するとも言われ、肥満と寿命の関係は複雑。どれだけ解明できるかこれからの研究の行方が楽しみですね。(瀬野)